【レビュー】車椅子の娘は母親の異常すぎる母性から逃れることができるのか―『RUN/ラン』




全編ほとんどがPCの画面上で展開するサスペンス映画『search/サーチ』が大きな話題を集めたアニーシュ・チャガンティ監督。

次作にあたる本作では車椅子生活の娘と、その娘を偏愛する異常な母親との駆け引きと脱出劇を見事なサイコスリラーにまとめ上げた。

病気のため車椅子で生活する娘のクロエは大学に進学して自立を図ろうとするが、母のダイアンはそんなクロエに新しい薬と称して緑色のカプセルを手渡す。

これが発端となり、一見、娘に人生を捧げているかに見える母の言動にほころびが垣間見えた時、娘の母に対するそれまでの信頼は一気に不信に向かい始める。

車椅子という物理的拘束と、母性という心理的拘束。

二重の拘束状態を強いられながら何とか必死に脱出を試みようとクロエが次から次へと打つ手が目を引く。

作家が異常なファンに監禁される『ミザリー』という名作が過去にあったが、本作の加害者と被害者の関係性は他人ではなく母と娘。

この親子という関係性が物語を実に面白くしている。

娘を優しく心配する素振りを見せる母親と、その心配に感謝してみせる娘。

そんな態度とは裏腹に監禁と脱出という真逆のことを企む2人の壮絶な心理戦は、全く飽きることなくずっと見入ってしまう。

母の娘への愛情と、娘の独立心。

この2つの感情がすれ違いや対立を生むことは珍しくないだろう。

どんな親子でも少なからず見受けられる摩擦を極端に誇張してみせるとこんな映画になるのかもしれない。

この映画では、SM的なプレイの一言では到底片付けられないほどにその摩擦が度を越して熾烈を極めるわけだが、それでも母と娘という関係性が何とも言えない不思議な余韻を残している気がするのは自分だけだろうか。

 

『RUN/ラン』

■監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ
■製作・脚本:セヴ・オハニアン
■提供:木下グループ

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