【レビュー】今度の のんは不器用で愛すべき“おひとりさま”―『私をくいとめて』




『勝手にふるえてろ』以来の綿矢りさ原作✖️大九明子監督のタッグ作品は、31歳“おひとりさま”女子による不器用なラブストーリー。

脳内にバーチャルに存在する相談役Aといつも会話しながら独り身の日常を送っている、そんな奇特な主人公を演じるのは、声優、女優としても活躍目まぐるしい、のん。

取引先の年下の男の子に恋をしてしまったことから、ある意味平穏だったそれまでの彼女の日常はざわつき始める。

妄想と独り言で突っ走っていく主人公のほっとけない可愛さをのんが見事に表現。

表現していると言うより、素なんじゃないかと思えるほどのハマり役。

その初々しくも滑稽な迷走ぶりは思わず応援したくなること必須で、最後まで彼女の言動から目が離せない。

『あまちゃん』以来7年ぶりの共演となる橋下愛の出演もささやかだが確実なスパイスとなって映画を彩る。

主人公の親友という原作にないオリジナルの役だが、彼女が住むイタリアを主人公が訪れて久しぶりに再開を果たすシーンは、『あまちゃん』からの実際の時間の経過も重なって、思わず目を細めてしまった。

大九監督も舞台挨拶にて、「このコロナの時期に皆さんをどうしてもイタリアに連れて行きたかった」と繰り返し話していたけど、この2人がこの時期に遠い異国で再開する姿は、以前にも増して他人との交流が減ってしまった世の“おひとりさま”たちに不思議な感動をもたらしてくれるはず。

のんの一挙手一投足を笑っているうちに、いつの間にか勇気と元気をもらえるという、ビタミン剤のような1本だ。

 

『私をくいとめて』

■原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
■監督・脚本:大九明子
■音楽:髙野正樹
■出演:のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり/橋本愛
■製作幹事・配給:日活 制作プロダクション:RIKIプロジェクト

©2020『私をくいとめて』製作委員会

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。