【レビュー】美しいビーチに閉じ込められた「美しい人生」に対する皮肉な視点―M・ナイト・シャマラン最新作『オールド』




『シックス・センス』で世界中の注目を浴び、『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』と次々に話題のスリラー作品を世に送り出してきたM・ナイト・シャマラン監督。

新作が世に出るたびにその評価が賛否両論に分かれることも多い一方、固定ファンも少なくない。

そんな監督の待望の新作は、一つの美しいビーチを舞台とした予測不可能なスリラーだ。

バカンス中にふとしたことからある秘密のビーチを訪れることとなった主人公たち4人家族は、そのビーチの中では急激に時間が早く進み人々がどんどん老化してしまうという衝撃的な事実に気付いてしまう。

ビーチに居合わせた人々とともにビーチから懸命に脱出を試みる彼らだが、理解不能の力によりビーチに閉じ込められたまま、次から次へと悲劇に襲われる。

突き詰めてみれば、確かに様々な美しい思い出で彩られる人生それ自体はこの美しいビーチのような存在かもしれない。

どちらもそこから逃れることはできず、ただ過ぎ去る時間に身を任せ死を待つのみ、というわけだ。

原作はフレデリック・ペータースとピエール・オスカル・レヴィーの小説『Sandcastle』(砂の城)。

ただそこは一癖も二癖もあるシャマラン監督、老いと死という人生に内在するテーマを描き込むだけでなく、原作の物語に自分なりの味付けを加味している。

予告映像を見た時に「そんな単純で安易なシチュエーションスリラーなんて!」と思ってしまった反面、物語の行き着く先が気になってしまって映画館に足を運んだそこのあなた。

自分と全く同じです。

その感覚的に湧き上がる好奇心を集めて離さないような魔力が、この映画には、このビーチには確かにある。

老いと死という逃れられない重いテーマをこんなに軽いノリと単純な設定で見せてくるシャマラン監督、どこまでが無意識でどこからが確信犯なのだろう。

どうせ人は老いて死ぬのだから俯瞰的に早送りにして好奇の目で見つめてみよう、と言っているようでもあり、そんな人生観を持ってるのかと疑ってもみたくなる。

そこは、「決して軽く片付けられない重いテーマをとっつきやすい単純なシチュエーションとテンポの良い物語で軽々と見せてしまう才能」とでも言うべきか。

おそらくは、そんなシャマラン監督の皮肉に満ちたスタンスやユーモアを手放しで大いに楽しむのが正解。

何故なら、登場人物の一人であるラッパーにあんなネーミングをつけるくらいだから…

 

『オールド』

■出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、アレックス・ウルフ ほか 
■監督・脚本:M.ナイト・シャマラン
■配給:東宝東和

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