【レビュー】戦争と親子愛で紡がれる激しくも心温まる“キングスマン”誕生の物語―『キングスマン:ファースト・エージェント』




マシュー・ボーン監督が送る『キングスマン』シリーズ第3作目が何と7回の公開延期を経てようやく公開中だ。

大ヒット作となった前2作の時代設定とは異なり、今回の物語は第一次世界大戦開戦直前まで遡る。

そこで描かれるのは秘密組織“キングスマン”の発足に至るスリル満点の前日譚だ。

志高いイギリス貴族の父オックスフォードにレイフ・ファインズが、母国への忠誠を誓う若き息子コンラッドにハリス・ディキンソンが扮する。

父子はやがて同じスパイ組織に身を置き、世界平和実現に向けた戦いに身を投じていくが、父は亡き妻との誓いから息子の身を案じ続ける。

そんな中、各国のリーダーに取り入って世界大戦を引き起こそうと企む闇の組織が本格的に暗躍し始める。

前2作と異なるのは時代設定だけではない。

大戦直前というシビアな時代だなけあって、物語のトーンはよりシリアスになっている。

そのため『キングスマン』シリーズ特有のおふざけ感もかなり抑え目だ。

その分観客の心をしっかりと掴むのは妻(母)を早くに亡くした父と子の関係性だろう。

志のために共闘しながらも父の息子への純粋な想い自体は失われるはずはなく、この親としての愛情が大義ある戦いに向けた意志を強靭なものにし、特に後半の物語をドラマチックなものにしている。

敵として2人の前に立ちはだかるロシアの怪僧ラスプーチンの存在感にも目が釘付けだ。

もともとダイナミックな戦闘シーンはこのシリーズの魅力の一つだが、ラスプーチンとの闘いは中盤の大きな見せ場だ。

予告映像でも十分に只者ではない雰囲気を醸し出しているが、本編での彼の一挙手一投足のインパクトは別にスピンオフ作品が見たいレベルなので、十分に期待してほしい。

実在する歴史上の人物との絡みで主人公の祖先や組織の先人たちが活躍するというプロット自体は漫画や映画でもよく採られる手法ではある。

ただ、戦争の悲惨さと親子愛の感動を巧みに両立させて描いた本作は、『キングスマン』シリーズに脈々と受け継がれる精神のルーツを説得力たっぷりに紐解いてみせた。

その精神とは、絶望に打ちひしがれた時でも、またくだけた雰囲気の中でも、決して失われることのない『キングスマン』メンバーの高貴さ、志の高さだ。

 

『キングスマン:ファースト・エージェント』あらすじ

表の顔は、高貴なる英国紳士。
裏の顔は、世界最強のスパイ組織“キングスマン”。
世界大戦の裏に隠されたこの秘密結社の誕生秘話が、ついに明かされる。
全世界を熱狂させた超過激スパイ・アクションシリーズ待望の最新作!

■監督・脚本・制作:マシュー・ヴォーン
■キャスト:レイフ・ファインズ 、ハリス・ディキンソン、リス・エヴァンス、ジャイモン・フンスー 他

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