【レビュー】 渾身のイ・ジョンジェ監督デビュー作にして感動のスパイアクション映画『ハント』




世界的ヒットを遂げたNetflixドラマ『イカゲーム』のシーズン2でも主演続投するイ・ジョンジェ

俳優歴30年になる彼が20年来の友人でもあるチョン・ウソンとともにダブル主演を務めながら、製作・脚本・監督デビューを飾ったスパイアクション作品が公開中だ。

スパイ映画はいつの時代も人気の高いジャンルだが、本作はそこら辺のスパイ映画とは違う。

世界中の映画祭に招待され、賞賛されている理由がそこにはある。

1980年代の激動の時代を迎える韓国。

安全企画部(旧KCIA)の海外班長パク(イ・ジョンジェ)と国内班長キム(チョン・ウソン)は、組織内に北の二重スパイがいることを告げられる。

自身を含めた組織内の人間全員が容疑者という緊迫感のあるハードな状況下で、二人はそれぞれ部下とともに捜査を進めていくが、互いへの疑いは強まっていき、次第に深く対立していく。

そんな緊張感が臨界点すれすれにまで高まる中、韓国大統領暗殺計画の存在が発覚する。

息もつかせぬ諜報活動と怒涛のスパイ炙り。

スパイアクション映画の醍醐味とも言うべき目まぐるしい展開と、二転三転して読めないストーリー。

それだけでも十分に引き込まれるが、この映画はさらに深く人間の信念や葛藤にまで踏み込んでいく。

スパイの悲哀と言えば『シュリ』『インファナル・アフェア』、利害の異なる人間の対立と協調と言えば少し前に話題になった『RRR』などの名作も想起するが、本作はそれらのどれとも違う。

そこでは自身が抱く大義や信念に対する葛藤や疑問が、予定調和の綺麗事ではなく、焦燥と緊張の極限状態の中で炙り出されるように生まれていく様が描かれる。

この人間の内から生じてくる葛藤や疑問こそ、情報過多な現代社会で権力やイデオロギーに扇動・洗脳されがちな私たちに最も必要なものかもしれない。

何よりも追い詰められた主人公たちの心理描写が素晴らしい。

大義を体現する特別な人物というわけではなく、一般人である観客一人一人に繋がる共感できる部分がわずかでも確かに残されている。

そのわずかな部分こそ、イデオロギーによる暴力が当たり前のように肯定される世界観の中での“光”だ。

主演・監督を務めたイ・ジョンジェは語る。

「私たちは、メディアや教育による歪んだ視点を通して偏った真実を信じ、反対勢力と敵対してしまうことがあります。世の中には、そうした対立から確実に利益を得る人たちがいる一方、私たちはどうでしょうか。自分の信念が名誉や愛に根ざしているかどうか、繰り返し自問自答くることが大切だと考えています。」

「この映画は、北朝鮮と韓国の物語というより、むしろ彼らの誤ったイデオロギーを正すために奮闘する人々についての作品だと思いたいです。」

早いテンポと情報量、焦燥、猜疑心。それはある意味で現代社会そのものかもしれない。

そんな中で真に失わずに持ち続けるべき信念とは何なのだろう。

アクションやストーリー展開のスリルだけでなく、現代人の心をえぐる感動をも両立させていること。

それがこの映画の最大の魅力だ。

 

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