【レビュー】内戦のソマリアから脱出を図った韓国と北朝鮮の大使館員たちの実話―『モガディシュ 脱出までの14日間』




ソマリア内戦のことはニュースで知っていても、そこから韓国と北朝鮮の大使館員たちが協力して脱出しようとした史実について知っている人はこの日本にどれだけいるだろう。

1990年。ソウル五輪の成功で勢いに乗った韓国は国連加盟を目指してアフリカ各地でロビー活動を展開、ソマリアの首都モガディシュも例に漏れななかった。

他方、アフリカ諸国との外交を既に始めていた北朝鮮も同様に国連加盟を目指しており、モガディシュでも両国間の妨害工作や情報操作が激しく行われていた。

そんな状況下のソマリアで内戦が勃発し、各国の大使館は略奪や焼き討ちの被害に遭い、外国人というだけで命が危険に晒される状況に陥ってしまう。

普段はいがみ合っていた韓国と北朝鮮の大使館員たちだったが、この危機的状況下において互いに意思疎通を図る必要に迫られていく。

日本でも大ヒットを遂げた韓国ドラマ『愛の不時着』はロミオとジュリエット的な立場にある主人公たちのカップルが結ばれ、また演じた俳優同士が現実の世界でも結婚するという朗報のおまけまで付いて、おおいに世間を賑わした。

これに対し、本作が描くのは、決して作り話ではなく30年以上も前に現実に起きた出来事だ。

両国の大使や職員のキャラクターの違いがこの映画を楽しいものにしている。

キャラクター像をいかしたコミカルな描写も多い一方で、生命身体の安全が危機に瀕する状況下でのシリアスな場面もじわじわと増えていく。

勝手が分からない異国における内戦の緊張感は観る者の心を締め付ける。

個人的に言えば、「関係性が良いわけでもない両者がある共通の利害のために共闘する物語」というのは何とも現実的でむしろ一層心を動かされるような気がする。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とマックスとフュリオサのラストのやり取り。

漫画「スラムダンク」で最後にハイタッチだけする桜木と流川。

長期間でなくても、短期間でも、数日でも、あるいは一瞬でも、何か心を通わせ合うことができたと思える瞬間があるからこそ、人は自分と他人に何かを期待しながらこの世で共生できているのかもしれない。

この映画は過去の史実を取り扱いながら、未来への光を、そして人の性(さが)それ自体を教えてくれたような気がした。

笑いとスリルと感動と、一抹のほろ苦さ。

社会派のテーマに沿うような実話をしっかりとエンタメ作品に昇華させている点も見事な1本だ。

 

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