世界3大映画祭を制した天才映画監督ポール・トーマス・アンダーソン。
その最新作は、70年代LAを舞台とするド直球の青春物語だ。
そこらへんにあるただの青春映画ではない。
こんな映画はおそらく監督しか作れない。
若さだけが持つ勢いや不完全さを全てひっくるめて、映画は最初から最後まで最高のきらめきを放つ。
映画を観ていてこんなにも心奪われ楽しい気分になることはなかなかない。
近づいては離れてを繰り返す主演の2人の魅力がとんでもない。
3人姉妹バンド「HAIM(ハイム)」のアラナ・ハイムがその名もアラナ役を務め、監督の盟友でもある故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが、ゲイリー役を務める。
年下のゲイリーに惹かれるアラナの自分を完全にコントロールできずに怒っているような様子。
子役として活躍するゲイリーの仕事に慣れた大人の側面と10代の子供じみた側面が同居する何とも言えないバランス(アンバランス)。
長編映画初出演(クーパーにいたっては映画初出演)とは思えない2人の自然でエネルギッシュな演技。
そのクセが強くも愛さずにはいられないキャラクターには、誰もがすぐに虜になるだろう。
監督は主演も脇役も含めてメイクを一切しないというルールを適用し、そのためか登場人物の誰しもが不完全な人間本来の魅力を振りまいている。
他方で個別のメイクなど必要ないほどに他の要素が本作を雄弁に彩る。
70年代の音楽、ファッションその他カルチャーの心躍るような再現。
38曲もの楽曲を担当したのは、監督と付き合いの長い「レディオヘッド」のジョニー・グリーンウッド。
自分は本作を観た後の今でもサントラを聴き返している。
ショーン・ペンやブラッドリー・クーパーが脇役で登場するシーンのインパクトも最高だ。
スピンオフ作品を観たいくらいにキャラが立っているので、是非とも期待してほしい。
若い頃は何故あんなに自信満々だったのだろう。
何故あんなに勢いがあって、未熟で、後悔して、それでも駆け抜けたのだろう。
本作は単純に子供時代を美化した青春映画などではない。
今もおそらくは不完全な大人たちが、「あの頃から自分たちは不完全だった」ということを思い出して、全肯定する。
そんな稀有で愛すべき青春映画なのだ。
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