【レビュー】「スパイダーマン」シリーズの集大成にして感動の最高傑作―『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』




トム・ホランドが3代目スパイダーマンとして主演するシリーズ第3作目が待望の日本公開を迎えた。

既に3週間前に公開されたアメリカでは、現時点で全米興収歴代6位にランクインするなど、怒涛の快進撃を見せており、その勢いは当分止まりそうにない。

このシリーズの映画のサブタイトルは、1作目が「ホームカミング」、2作目が「ファー・フロム・ホーム」、そして本作が「ノー・ウェイ・ホーム」と全て「ホーム」の言葉を含んでいる。

今やアベンジャーズの一員として著しい活躍も見せるスパイダーマンだが、一連のサブタイトルが示唆するように、一貫した作品のテーマは、家族や仲間といった主人公ピーター・パーカーにとっての大切な居場所であり愛すべき人たちとの間の関係性だ。

そして、本作のサブタイトル「ノー・ウェイ・ホーム」(帰り道がない)は、否が応でもピーター個人に訪れる大きな試練を想像させる。

前作でミステリオ(ジェイク・ギレンホール)という強敵に勝利したスパイダーマンだが、その代償に全世界に自身の正体(ピーター・パーカー)をバラされてしまう。

仲間や家族を守るためにピーターは、アベンジャーズとして共闘したドクター・ストレンジの魔術の力を借りて人々の記憶からスパイダーマンを消そうとするが、マルチバース(言わばパラレルワールド)から新しい敵を招いてしまうというハプニングに直面する。

マルチバースからこちらの世界へ侵入する複数の敵は皆歴代スパイダーマン(トム・ホランドの前にトビー・マグワイア版の3部作とアンドリュー・ガーフィールド版の2部作がある)と死闘を演じたヴィランであり、これはシリーズ全体のファンにはたまらない設定だ。

過去(物語の中では別世界だが)のヴィランがこちらの世界で大暴れをして、我らが最新スパイダーマンと激しく闘う。

その様子は懐かしさと新鮮さが入り混じった不思議な感覚を呼び起こすはずだ。

ここで強調したいのが、懐かしいキャラクターの再登場やスタイリッシュなアクションだけがアメリカでの先行大ヒットの理由ではない、ということだ。

本作では、ピーター個人の心情にどの作品よりも大きく焦点が当てられている。

そのためか、MJやネッド・リーズといったピーターのクラスメイトが登場する場面もこれまでより格段に多い。

そんな中、ピーター自身は全2作を大きく上回る試練と成長を強いられることになる。

それは敵をただ倒すといったシンプルな強さではなく、そのさらに上をいく真のヒーローへの進化だ。

自身の感情や利益より世界全体の平和を考えて行動することの難しさと美徳。

また、それに必然的に伴う物悲しさ。

マーベルとは別系列なので引用するのはやや気が引けるが、物語の展開に「ダークナイト」を思い出してしまったのは自分だけだろうか。

ただ一つ言えるのは、まだ子供らしさも残るピーターが大きな悲しみを残り超え、強い覚悟の下に大きな責任を背負う姿は、きっとファンならずとも多くの人の涙を誘うだろう。

果たしてピーターは難敵を迎え撃ち世界の仕組みを元に戻すことができるのか。

そして、自らの「ホーム」へ無事帰ることができるのか。

感動の『スパイダーマン』シリーズ最高傑作、これに見合うのは映画館の大スクリーンを除いて他にない。

 

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

■監督:ジョン・ワッツ
■脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
■製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
■出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ファヴロー 他

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