【レビュー】溢れ出るスプラッターホラー愛を全身全霊で受け止めよ―『ハングリー/湖畔の謝肉祭』




語弊があるというか、少し失礼を覚悟で言うので先に断っておきたいのだが、たまにめちゃくちゃマクドナルドのハンバーガーが食べたくなる時ってないだろうか。

めちゃくちゃジャンクなものを身体も心も欲してしまう、あのシンプルに湧き上がる欲求。

この映画はそんなハンバーガーだ。

もうビッグマックというか、トリプルパテにして、何故かパテとパテの隙間にナゲットやポテトまで挟まってるような感じだ。

その潔いくらいのB級感と突き抜けた姿勢は、ジャンクフードのメーカーが満を辞してリリースした奇想天外な新商品のようなインパクトがある。

だが、この映画はもちろん食べ物ではない。

観客が味わうのは食べ物の美味しさなんかではなく、むしろ自分が食べられてしまいそうになるという他の何にも変え難いような恐怖体験だ。

舞台は現代のイングランド南部。

野外レイブに参加するため車で移動していた若い男女6人組のグループが見知らぬ土地で道に迷い突然恐ろしい食人一族に襲われる。

生きたまま人肉を喰らう食人鬼たちから、果たして彼らは無事に生き長らえることができるのか。

食人一族は人間の皮膚でできたマスクを被っており、ホラーの名作『悪魔のいけにえ』の殺人鬼レザーフェイスを彷彿とさせる。

そんなレザーフェイスが1人じゃなくて何人もいて徒党を組んでるわけなので、そんなシチュエーションは主人公たちにとって絶体絶命のピンチ以外の何物でもない。

ただでさえ、ホラー映画で特に夜にはしゃぎすぎてる若い登場人物は死亡フラグが立つというのに、この映画の主人公たちはレイブパーティーに向かっているというのだから、もう冒頭から命の危険にさらされないわけがないと確信させてくれる。

もはや不謹慎な表現になるけど、その確信とは、報われそうな期待についての喜びや興奮とほぼイコールだ。

セオリーど真ん中を突破してでも気に留めることなく物語をどんどん好き勝手に展開させていく監督の手腕は、もうあっぱれと言うしかない。

そんな気になる監督は、俳優やプロデューサー業もこなしながら、それこそたくさんのホラー映画を送り出しているルイーザ・ウォーレン

この映画を観ると分かるが、監督はカニバリズムとかスプラッター系のホラーが好きすぎるのだ。

映画は真正面からエグいシーンを何度も映し出していて、まさに攻めに攻めている。

しかし、そこはやはりシリアスさからは一定の距離を保ったB級感に包まれていて、しかも監督の「それをどうしても見せたくてしかたのない感」みたいなものがセットで伝わってくるので、目を背けたくなるというより、むしろ「おし!見てやろうじゃないか!」とアドレナリンが出て前のめりになってしまう。

自分だったら絶対に代わりたくないような最悪の体験を主人公たちがしているのに、それでも楽しんで見続けられるのは、全般的に監督のホラー愛を肌身で感じて「しかたないなぁ(笑)」という気持ちにさせてくれることが大きく起因してるように思えた。

そして、昔若い頃に夜更かしをしていてふとTVのチャンネルを変えたらやっていたカルト的なホラー映画か何かをついつい最後まで見続けてしまう、あの感じをどこか懐かしく思い出したりもした。

ちなみに実話がベースとのことだが、調べてみても似たような話の元ネタの事件は近代史では見つけられなかった。

15世紀まで遡るとスコットランドでソニー・ビーン事件というのが起きているが、もしかしたらこの事件にインスパイアされたのかもしれない(あくまでも推測)。

仕事やプライベートの日常に疲れていて、考えさせる理屈っぽい映画や自分には程遠いドラマで感動を押し付けてくるような優等生的な映画はしばらく遠慮したい。

なんて思ってる人には、痛すぎる足ツボマッサージを受けに行くような感覚で是非この映画を観に行くことをオススメしたい。

ひたすらに不条理に巻き込まれ続けるお化け屋敷的な展開と目の覚めるような残虐描写で、気分を司る脳のツボが直接刺激されて、もしかしたら心機一転リフレッシュできるかもしれない。

とはいえ、カニバリズムホラーで日常をリフレッシュ、とか言ってる時点でもう自分も監督の世界観に片足突っ込んでしまったような気がして複雑な気分になるのだが、そんなのは気のせいだと思うことしよう。

 

『ハングリー/湖畔の謝肉祭』

■監督:ルイーザ・ウォーレン
■脚本:チャーリー・マクドゥーガル
■出演 ジョディ・ハットン/リチャード・サマーズ・カルバート/リース・プティナス ほか

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。