【レビュー】一切の音が聞こえない世界で執拗に迫りくる殺人鬼―韓国発スリラー『殺人鬼から逃げる夜』




『クワイエット・プレイス』『ドント・ブリーズ』の続編がそれぞれ公開されるなど、五感の一部が制限されたシチュエーションスリラーが人気を博している中、韓国から新たに「音」に関する話題のスリラー作品が届けられた。

主人公OL、ギョンミは、耳が聞こえない。

同じく耳が聞こえない母親と協力しながら楽しく二人暮らしを送り、会社でも物怖じせずに積極的に仕事をこなす日々を過ごしている。

そんな彼女は、ある夜、連続殺人鬼の男と出遭ってしまい、不運なことにその新たな標的にされてしまう。

ただでさえ女と男の体力差があるにもかかわらず、殺人鬼は容赦なく刃物を振りかざし、何と言っても彼女には一切の音が聞こえない。

圧倒的に不利な状況の中、殺人鬼はその状況を楽しむように執拗に彼女を追い続ける。

彼女の母親や、助けを求めた警察官、妹が殺人鬼に襲われた兄といった人物たちも交えて、一夜のノンストップの逃走劇が緊張感溢れる展開を見せていく。

韓国のホラー、スリラー作品が描く逃走劇・追走劇は何故目が離せないほどに面白いのだろう。

これは持論だが、その面白さをお膳立てしているのは2つ、「警察」と「坂」だ。

自分なりに懸命に捜査を行う警察官は往々にして間違った判断をして後手後手に回り、犯人の暴走を全く止められない。

主人公や犯人が全速力で追いかけ合うシーンには多くの坂道が出てきて、並々ならぬ臨場感で物語の展開を劇的に盛り上げる。

本作でも個人的にこの警察と坂をおおいに楽しめた。

話が脇道にそれてしまったが、本作の一番の特徴はもちろんギョンミが置かれた無音の状態だ。

彼女は逃走の最中に無音ゆえに多くの危険を味わうことになる。

殺人鬼は当然に彼女が耳が聞こえないことを弱みと考えてそこを突いてくるし、手話でしかコミュニケーションを取れない彼女の不便さすらも狡猾に利用する。

音を一切味方にできないギョンミが、頼りない警察の力も借りることができず、自身を助けてくれる存在ともすれ違いながら、殺人鬼から必死に逃げ続ける。

そんな彼女が八方塞がりの中で咄嗟の判断で利かせる機転や、ときに命本来の叫びを発して恐怖に立ち向かう姿は、思わずハッとさせられるほどに見応え十分だ。

 

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。