【レビュー】水の精霊ウンディーネが背負う哀しき宿命―『水を抱く女』




水を抱く女

四大精霊の一つ、水を司る精霊、ウンディーネ。

古くはアンデルセン童話『人魚姫』のモチーフにもなった水の精だ。

ウンディーネは人間の男性と結婚すると魂を得るが、同時に3つの事柄が禁忌とされる。

・水の側で夫に罵倒されると、水に帰ってしまう
・夫が不倫した場合、夫を殺さねばならない
・水に帰ると魂を失う

この映画では時代設定を現代に置き換えてウンディーネの恋愛と宿命が描かれる。

彼女はきちんと定職を持ち社会生活を普通に送る女性だ。

職業は歴史家、ベルリンの博物館でガイドを務めている。

物語の本線とは関係しないが、戦争を経て変貌を遂げたベルリンという街の時代考証について彼女が解説するシーンも印象的だ。

ドイツ自体が辿った歴史と今なお抱える問題が、ウンディーネにつきまとう哀しい宿命と妙に重なるのは気のせいか。

ウンディーネを演じる女優パウラ・ベーラが何にもまして素晴らしい。

気丈さに溢れた表情、無防備な笑顔、水のように冷たく鋭い覚悟と殺意。

これまで多くの芸術家たちを魅了し創作意欲を掻き立てた水の精霊。

彼女がバッハの調べに包まれながら現代に美しくも切なく蘇る姿には思わずため息が出てしまう。

 

『水を抱く女』

■監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト

■出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ

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