【レビュー】生々しい吐息がかかるほどの近さで目撃するシリアルキラーの殺人衝動―『アングスト/不安』




気持ち悪いモノを見たがる人間の心理を何と呼べばいいのか。

気味が悪い経験をどこかで好んでしまう人間の特性は何に由来するのか。

ジャンルに制限のない映画という表現手法がそのテーマに据えて描き出す対象として、実は“嫌悪感”も決して例外ではない。

そして、爽快感や多幸感とは無縁の純度の高い嫌悪感・不安感を詰め込んだ、なかなか他に類を見ない映画が本作。

1980年代にオーストリアで公開されるとわずか1週間で上映打ち切りとなり、40年弱の長い時を経て今回日本で初公開されることになった。

正直、「何で40年近くも寝せたんだ!何の熟成なんだ!」といった代物だ。

オーストリアで実際に起きた一家惨殺事件を描いている本作は、殺人鬼側の心理を描写することにその全てを注ぐ――。

その結果、当然に殺人鬼でもない見る側の心を動揺させ、否応なくこちらを試してくる。

一切共感できない殺人鬼の主人公にひたすらに張り付くカメラワーク。

一人称視点でもなく、真横のすぐ側で一部始終を現認させられる絶妙なアングル。

主人公も冷静なシリアルキラー像とはかけ離れている。

いつも何かに追われているように不安を感じて焦っていて、決して器用な性格ではない。

無機質であれば救いがありそうな部分も、徹頭徹尾、主人公が生き物としての生々しいため救いがない。

書けば書くほど、「何のためこんな映画を観なきゃいけないんだ!?」と思われるかもしれないけど、それこそ純粋な“気持ち悪いモノ見たさ”なんだろう。

劇場で濃密な不安を経験をして、逆に日常生活に安心感を取り戻してみるのもいいかもしれない。

カルト映画の鬼才ギャスパー・ノエ監督が60回も観たという本作(どうかしてる!)、まずは1回目をどうぞ。

 

『アングスト/不安』

■監督:ジェラルド・カーグル 
■撮影・編集:ズビグニェフ・リプチンスキ
■音楽:クラウス・シュルツ
■出演:アーウィン・レダー、シルヴィア・ラベンレイター、エディット・ロゼット、ルドルフ・ゲッツ

©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion