【レビュー】いつかは社会に漕ぎ出す少年が海辺で経験する忘れられない物語―『Summer of 85』




フランスが誇る名監督、フランソワ・オゾン監督の最新作は、海辺の町を舞台にした少年たちのひと夏の恋と別れを綴った原点回帰のラブストーリー。

オゾン監督が若い頃に読んで大きな感銘を受けたというエイダン・チェンバーズによる小説『おれの墓で踊れ』を原作としている。

監督自らオーディションで起用したフェリックス・ルフェーヴルとバンジャマン・ヴォワザンがそれぞアレックス(16歳)とダヴィド(18歳)の2人の少年を演じ、若さが持つ純粋さや危うさを見事に表現する。

ヨットで海に出たアレックスは嵐で転覆してしまい、偶然にも海上を通りかかった18歳のダヴィドに救われる。

物を書くことが好きで大人しい性格のアレックスは、そこまでパッとしない現状や定まらない進路に不安をぬぐえない日々を送っている。

そんなアレックスにとって、奔放で刹那的な性格のダヴィドは眩しく、彼の明るい存在は日ごろの自身の不安をかき消し、二人の関係は自然と急接近を辿る。

夏に輝く海は少年の無限の可能性を秘めた将来を思わせるが、突然襲ってくる嵐はアレックスの日常的な不安の象徴だろう。

そんな不安が的中したかのような転覆事故から救ってくれたダヴィドはアレックスの人生を明るく照らしてくれる光だ。

アレックスがダヴィドのバイクの後ろに二人乗りをするシーンがある。

「足を地面に着けるな」「リラックスして動きに身を任せろ」

ダヴィドのセリフは彼自身の自由奔放で刹那的・楽観的な生き方を象徴しているようであり、後にそのスピードの出た荒い運転に小言を言うアレックスは、ダヴィドの行動に振り回される近い将来の自分を予見させる。

眩しい夏の海沿いを舞台に開放的に繰り広げられる少年たちの喜怒哀楽が眩しく、どこか懐かしさを伴った感傷を呼び起こす。

そんな感傷に色を添えるのは音楽だ。

80年代の音楽が多用され、THE CUREの「In Between Days」、ロッド・スチュワートのが中でも印象的だ。

特に「Sailing」は、その使用される場面や歌詞とリンクした少年の想いも相まって、映画により深い情緒を与える。

夏と海と美しい少年たちと音楽。

オゾン監督の真骨頂とも言うべき、甘くて切ない、それでいて希望を見失わない物語。

社会人である大人にこそ是非観て感じてほしい、魅力の詰まった1本だ。

 

『Summer of 85』

■監督・脚本:フランソワ・オゾン
■出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ 他
■配給:フラッグ、クロックワークス

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