SNS全盛に加えてコロナ禍によりさらに人と人との手触り感のある繋がりが減った現代社会へ、フランスの恋愛映画の名手セドリック・クラピシュ監督から心暖まるプレゼントのような映画が届いた。
舞台はパリ、そこにはたくさんの人が暮らしていて出会いと別れを繰り返す。
主人公は2人の男女、何故か同僚がリストラされる中自分だけ昇進した罪悪感から不眠症になってしまったレミーと、失恋のストレスから逆に過眠症になってしまったメラニー。
そんな2人はともに30歳、偶然にも隣り合わせのアパートに住みながら、毎日ベランダから同じモンマルトルのサクレ・クール寺院を目にし、同じ時間に出勤して同じ電車を使い、近所の同じ食料品店に通う。
ただ2人はまだ出会っていない――。
内気で優しいけど不器用でどこか滑稽な2人は何となく似ている部分も多く(原題も「Deux moi」(2人の私)となっている)、出会いさえすればお似合いに思えるのに、片方が不眠に苦しんでるかと思えば片方は爆睡してることが象徴するように、同じ生活圏にいてもすれ違いの連続でなかなか2人は出会わない。
そんな親近感溢れる2人に対するクラピシュ監督の眼差しが一貫して優しい。
2人がそれぞれ猫を可愛がるシーンがあるが、監督の2人に対する扱い方は、あどけなくてほっとけない猫に対するそれにも似ている気がした。
出会い系アプリにSNS、現代を象徴するアイテムも登場させながら、それでも監督がこだわって描くのは生身の人と人との交流だ。
2人はともに軽い鬱病なのでそれぞれカウンセリングを受けているが、カウンセラーとは直接会って対話していてきちんと生活の時間を割いている。
観光地としてではない日常に根付いたパリの街並み、食料品店のクセのある店主とのちょっとした会話、根深い家族問題と正面から向き合うこと、体を寄せ合って踊るダンス。
出会いも何もかも便利に合理化された現代社会で、どこかそんな社会にマッチしてない不安定な2人が辿ることになる、ささやかだけど極上の手触り感。
都会の生活にストレスと孤独を感じている人たちも、この映画を観ると、何気ない日常生活の習慣の先にとっておきの出会いを想像してしまうだろう。
そしてロマンチストになれた少なくともその時は、都会の現代人たちもきっと猫のように可愛らしいのだ。
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