【レビュー】一人の赤ちゃんをめぐる大人たちの様々な思惑―『ベイビー・ブローカー』




『そして父になる』で養子縁組問題を、『万引き家族』で疑似家族を描いた是枝裕和監督

その最新作は、キャスト、スタッフ、舞台もオール韓国という初の韓国映画だ。


ある理由から赤ちゃんポストに赤ん坊を捨てた母ソヨン(イ・ジウン)。

彼女は、その赤ん坊を連れ去り高値で売ろうと目論むサンヒョン(ソン・ガンホ)、ドンス(カン・ドンウォン)の2人組と出会い、赤ん坊の養父母探しの旅に出ることになる。

他方で、刑事のスジン(ペ・ドゥナ)とイ(イ・ジュヨン)が彼らを見張りながら追跡し、それぞれの思惑が交錯しながら物語が進展していく。


是枝監督は、日本の「赤ちゃんポスト」より遥かに利用件数が多い韓国の「ベイビー・ボックス」の実態を取材する中で、「自分は生まれてきてよかったのか」と葛藤する子供たちの声を向き合うことになったという。

オリジナル脚本で描く本作の物語は、まさにそんな子供たちの声に対する是枝監督からの回答だ。

劇中ではあらゆる立場の登場人物が相互に関係していくことにより、「親と子」という誰しもが逃れられないテーマがじわじわと立体的に浮き上がる。

立場の違う者たちが上げる声や取る行動は、表面的な机上の議論より切実で、その分、心に響き渡る。


ロードムービーであることも監督の想いの伝達を助けているように思えた。

「そして大人になる」、あるいは「そして母になる」とでも言うべきか、子供が生まれたその時点では親はある意味でまだ形式的な親にすぎない。

大人たちの心境が変化して赤ん坊の幸せを本気で願い始めるようになり、また母親としての意識が次第に成熟していく様子は、まさに一つの場所にとどまらない彼らの旅路と自然に重なり合う。


本作主演のソン・ガンホは、2022年カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞している。

是枝監督は脚本制作においてソン・ガンホに当て書きしたらしい。

人間の奥深い内面を切実に、それでいて実に自然に表現した彼の演技は観る者全てをきっと魅了だろう。

全ての親の、そして全てのかつて子供だったことがある大人の心を捉えて離さない、味わい深い感動作がここに1つ生まれた。

 

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