【レビュー】世界的スターと無名の少年―二人を繋ぐ“秘密の文通”から広がる切なくも美しい物語『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』




現代映画界の革命児であり至宝、グザヴィエ ・ドランを知っていますか?

『マイ・マザー』『胸騒ぎの恋人』『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』『Mommy/マミー』と、1〜2年ごとに作品を世に送り出し、『たかが世界の終わり』ではカンヌ・グランプリを受賞したカナダはケベック州生まれのドラン監督。

子供の頃から子役俳優として活躍していた彼は、今ではゲイであることを公表して、監督作や出演作に自身の性的アイデンティティや創作性、美的感覚をあますところなく発揮している。

どの作品も、その画面構図、色や音楽に、彼以外の他の誰にも表現できないような個性や美意識が色濃く投じられてて、その贅沢な宝箱のような映画は観ていて本当にため息が出そうなほど。

極めつけには彼自身が超絶イケメンというおまけ付き。

そんな映画界の寵児が初めてフランス語を離れて英語を使用して撮影したのが『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』だ。

今回彼が用意した物語は、アイデンティティに葛藤するスター俳優とそのスターに憧れて自らも俳優になることを夢見る少年、その2人の間で幾度となく交わされた文通――。

ドラン監督自身が子供の頃に『タイタニック』のディカプリオに憧れて、実際に彼にファンレターを送ったことがあり、その実話をもとにふくらんだ本作は、これまでのドラン作品でしばしば取り上げられてきた母と息子の関係性にもしっかり焦点が当てられている。

しかも、今回はスター俳優の息子とその母親、少年とその母親という2組の母子関係が描かれていて、その感動もダブルで響く。

何より、物語を紡ぐ豪華なキャストに触れないわけにはいかない。

どこか孤独なスター俳優のジョン・F・ドノヴァン役には、実際に『ゲームオブスローンズ』シリーズのジョン・スノウ役で世界的人気を集めたキット・ハリントン。

昨年はゲースロ一色だったと言えるほどにハマりにハマった自分としては、あのジョンがドラン映画でまた違うジョンを演じるのを見られるなんて嬉しい悲鳴以外の何物でもない。

ドノヴァンの母親には名優スーザン・サランドン、なかなか身勝手だけど息子に対する確かな愛を垣間見せる母親の熱演は素晴らしすぎて個人的には今回のキャスト全員の中でMVP。

そして健気な少年役に映画『ルーム』で生まれてこのかた部屋から出たことがなく、世界を知らない男の子を演じて世界中を驚かせた魅了した天才子役ジェイコブ・トレンブレイ。

ナタリー・ポートマン演じる母親との衝突と融和のシーンは、情緒に直接訴えかけてくる類の感動。

相変わらず音楽も映画に最高の色を添えているアデル、ザ・ヴァーヴ、ビター・スイート・シンフォニーを聴くとテラスハウス思い出す人もいるかもしれないけど、全く別の雰囲気を作り出せてしまうのがドラン流。

フローレンス・アンド・ザ・マシーンのあるカバー曲なんかは、一歩間違えたらダサいセレクトになりそうなところを実際は全然そうならなくて、映像と相まってこちらの感情を強くかき乱してくる。

これまでのドラン作品に比べると、強烈にエモーショナルなシーンの分量はやや少な目となっていて全体的に穏やかな大人の仕上がりになってるいる気がするのは、積み上げてきたキャリアのなせる円熟味の現れか。

と言ってもまだ30歳という若さのグザヴィエ ・ドラン。

これからも唯一無二の圧倒的な才能で映画ファンを虜にしていくに違いない。

 

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』

 
■監督:グザヴィエ・ドラン
■配給:ファントム・フィルム/松竹
■脚本:グザヴィエ・ドラン、ジェイコブ・ティアニー
■出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレ 他

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