【レビュー】敵への敬意と譲れない主張、「言葉」の力が輝いていた時代の伝説の討論会『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』




学生運動が苛烈な盛り上がりを見せる1969年。

時の作家 三島由紀夫が東大全共闘に討論を申し込まれ、東大駒場キャンパスの大教室に単身乗り込む。

総勢1000人以上の全共闘に囲まれて、活動家三島由紀夫と全共闘の論客たちとの熱い論戦の火蓋が切られた――。

言葉は、他者との意思疎通の道具であると同時に武器でもある。

人を論破し怒らせ傷つけ得る、その武器を三島由紀夫はとても丁寧に扱う。

決してこれ見よがしに刀を振り回すようなことはしない。

不用意に挑発するでもなく、全共闘への最低限の敬意を忘れずに時にユーモアを混ぜて、全共闘1000人を本気で「説得」しようとしている。

右と左の違いはあれど、天皇制への認識・態度に違いはあれど、互いの底を貫く当時の反米愛国主義をとっかかりに共闘の余地を示唆する絶妙な論理の組み方と言葉の選択。

ともに共闘できるのか?互いに殺し合うしかないのか?

敵への敬意を前提としたこんなにも崇高でレベルの高い「闘い」は、格闘技の試合でもそうそう見ることができない。

これこそまさに三島由紀夫が体現する決闘精神なのだろうか。

あの瀬戸内寂聴が少女のように目をキラキラ輝かせながらその思い出を語る人物、三島由紀夫。

当時日本にこんな人間がいたのか・・・今日報道されている日本の政治家たちの死んだ言葉のやり取りは一体何なんだ。

映画を観終わった後どころか、序盤から既に三島由紀夫という知のモンスターの完全な虜になっていた。

言葉はまだ捨てたもんじゃない、魂が宿るんだ、とゾクゾク胸躍らせてくれる素晴らしいドキュメンタリー。

 

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』

三島由紀夫
芥正彦(東大全共闘)木村修(東大全共闘)橋爪大三郎(東大全共闘)
篠原裕(楯の会1期生)宮澤章友(楯の会1期生)原昭弘(楯の会1期生)
椎根和(平凡パンチ編集者)清水寛(新潮社カメラマン)小川邦雄(TBS記者) *肩書は当時
平野啓一郎 内田樹 小熊英二 瀬戸内寂聴

■ナビゲーター:東出昌大
■配給:ギャガ

© 2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会
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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。