【レビュー】悪魔の存在を証明しようとした裁判の実話を映画化―『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』




アメリカに実在した心霊研究科のウォーレン夫妻の経験をドラマ化した『死霊館』シリーズ。

本編、スピンオフ作品ともにホラー好きのファンを多く集めているが、本作は本編の3作目に当たる。

パトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガのコンビが引き続き演じるウォーレン夫妻が、「悪魔」に憑依されて殺人を犯したという1人の青年を救おうと奮闘する。

裁判所が悪魔の存在を認めた実話の映画化と言えば、『エミリー・ローズ』に思い至るホラーファンも少なくないだろう。

ただ、この映画がモチーフとした1976年にドイツで起きた事件は、実際は精神医学界では、精神障害の誤認・怠慢・虐待、宗教的ヒステリーの一例と位置付けられている。

論理と科学を重んじる裁判所は悪魔の存在など容易には認めない。

これは、「証明が到底不可能な事柄」や「不存在事実」についての証明のことを法学用語で「悪魔の証明」と呼ぶことからも十分に推察できる。

もっとも、西洋の裁判では神の存在を前提に関係者が法定で宣誓を行うのも事実だ。

であれば神と対の存在である悪魔の存在も認めてしかるべきではないか。

そんな問題意識に依拠して、弁護側が悪魔の存在を証明しようとした刑事裁判が過去のアメリカで実在した。

それは1981年にコネチカット州で起きた事件に関する裁判であり、まさに本作はこの事件と裁判をモデルとしている。

これまでの『死霊館』シリーズと同様に、ホラーというジャンルに依拠しながらも、人と人の結びつきを見事に描き出している。

青年が「悪魔に憑依される」ことになった経緯と理由、青年を助けようとする恋人の存在。

青年を救おうと奔走する夫妻の強い想いと行動力。

人と人の結びつきがいかに大切でそれ自体が大きな強みになるというシリーズ全体に共通するテーマは、本作でも物語にしっかりと込められている。

一方で、事件の真相を探る夫妻のアプローチや物語の急展開は、観る者が予想できないような内容になっており、その緊迫感は最後まで途切れることがない。

冒頭の悪魔祓いの場面では、名作『エクソシスト』にも劣らない衝撃のシーンもあり、ホラーファンにはたまらない味付けも健在だ。

ホラーと感動を両立させる『死霊館』シリーズ、まだまだ新作が控えているようであり、今後も目が離せない。

 

『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』

■監督:マイケル・チャベス
■製作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン
■出演:パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード

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