【レビュー】白石和彌監督の最新作『ひとよ』 人は自分を産んだ母から逃れることができるのか?

白石和彌監督の最新作『ひとよ』




執拗に家庭内暴力をふるう父親から、子供たちを守るために殺した母親。
刑期をつとめて15年後に戻ってくるという約束どおり、その母親が突然家に帰ってきた――。

犯行直後に母親によって、これからは自由に生きることができると将来を保証された子供たちのはずが、事件以降も犯罪者の子として生きざるを得なかった現実。

母親は何故戻ってきたのか?子供たちは母親の犯行をどのように受け止めて生きてきたのか?

家族であることに文字どおり呪縛があるとすれば、清濁併せ飲む意味でその呪縛こそ血が繋がっているという単純な事象の本質的な意味であり、誰もが抗えない圧倒的な事実であることを再認識させられる。

母親は母親でしかなく、子がどんなにその存在を否定しても自分はその子でしかあり得ないということ。

『万引家族』が擬似家族の悲哀を描いたとしたら、この映画は真の家族が擬似家族のように成り下がってしまった事情と経緯を克明に描き、それでも擬似だと片付けきれない血の繋がり(もはやそれは”呪い”と同視してもおかしくない)を炙り出す。

母親役に田中裕子をキャスティングした白石監督が、彼女なしには映画化は考えられなかったというほどに、尋常ではない覚悟のもと全てを背負うその母親像は、母性という単純な言葉ではくくれないほどに、観る者の心を打ち抜いてくる。

皆等しく母親から産まれた存在でしかないからこそ、心は激しく揺さぶられる。

親と子は、限られた人生の中で、一体どれほど親子であることの無力感と充足感を噛みしめるのか・・・と、この映画を観終わった後に、目を泣き腫らしながら何となく考えてしまった。


映画『ひとよ』

■監督:白石和彌
■出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子
■脚本:髙橋泉
■原作:桑原裕子「ひとよ」
■配給:日活

11月8日(金) 全国ロードショー


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