【レビュー】現代の暗い社会問題の中で激しくも美しく輝く若さという閃光―『少年の君』




逆境に苦しむ人間の孤独な魂同士が惹かれ合う映画を目にする機会は少なくない。

そんな映画の中でも本作が他と一線を画しているのは、若さが本来的に持つ純粋さと峻烈さの感動的な描写だ。

進学校に通う女子高生のチェン・ニェンは、いじめを苦に飛び降り自殺した同級生の遺体に上着をかけてあげるが、これを契機に今度は自分がいじめの標的になってしまう。

相談できる相手もいない彼女は、下校中に集団暴行を受けている不良少年シャオベイをと出会い、咄嗟に彼を助けようとする。

ともに頼れる他人を持たない二人は、優等生と不良という立場の違いを超えて、次第に互いの存在に希望を託そうとしていく。

社会に出て働く大人の世界に地獄があるように、社会に出る前の子供の世界にも相応の地獄がある。

この映画が二人の少年少女を取り巻く地獄として描いているのは、受験戦争、いじめ、ストリートチルドレンといった社会問題、いずれも中国の現代社会が抱える病理だ。

二人が自身の地獄をひと時の間忘れてバイクで疾走する時の表情は軽やかだが、それでもバイクは都会を大きく離れるわけではない。

二人が歩いている場所には大きな坂や立体交差がよく使われており、解決困難な問題が二人の周りを取り囲んでいることを予感させる。

この映画は「子供が大人に頼れない状況」を大人が作っていることについての大人の責任には特に踏み込まない。

唯一、主人公らを理解して協力の手を差し伸べようとする若手刑事も成熟した大人というよりは「若さ」という範疇でくくられているような気がする。

本作の原作に当たるオンライン小説のタイトルは「少年的你,如此美麗」、これは翻訳すると「若いあなたはこんなに美しい」といった意味になる。

若い2人が若さだけを頼りに寄り添い、何とか前に進もうとする様は、大人の出番など要らないと言っていいほどに、純粋で峻烈な感動を届けてくれる。

『少年の君』

■監督:デレク・ツァン(曾國祥) 
■脚本:ラム・ウィンサム(林詠琛)、リー・ユアン(李媛)、シュー・イーメン(許伊萌) 
■撮影:ユー・ジンピン(余靜萍)
■出演:チョウ・ドンユイ(周冬雨)、イー・ヤンチェンシー(易烊千璽)、イン・ファン(尹昉)、ホァン・ジュエ(黃覺)、ウー・ユエ(吳越)、チョウ・イエ(周也)

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