17世紀、イタリアの小さな町。
歴史上初とされるレズビアン裁判で告発された女性ベネデッタ・カルリーニ。
彼女は6歳にして出家した敬虔な修道女だった。
そんな史実をベースに彼女の辿る数奇な人生を綴るのは『ロボコップ』『氷の微笑』『エル ELLE』などで知られる齢80を超えるポール・バーホーベン監督。
オランダ出身の巨匠が製作したイタリアを舞台にしたフランス映画(フランス語で物語が展開する)、という何ともややこしい本作だが、巨匠の鬼才ぶり衰えずと言うべきか、内容は大胆にして過激。
決して昔の話の一言で終わらせない現代への風刺にも満ちていて、その鋭い棘は観る者の心に突き刺ささる。
ベネデッタは、修道院に助けを求めてきた若い女性バルトロメアを救ったことから、彼女とレズビアンの関係を深めていく。
ベネデッタを演じるビルジニー・エフィラが素晴らしい。
凛とした表情と立ち振る舞いが彼女の生命力と覚悟を際立たせる。
イエスを目にして聖痕を受けたと主張する彼女が周囲から聖人視され、修道院長の地位まで手にしていく中、誰よりも彼女を疑問視する元修道院長役にシャーロット・ランプリング。
さすが大女優、その存在感と感情の移ろいの表現はベネデッタのぶれない信念と行動を際立たせる意味でこの映画の見事なアクセントになっている。
「信じる者は救われる」
「宗教は最高の処世術だ」
などと言われることもあるが、この映画を観る前と後ではこれらの言葉の持つ意味合いや力強さがガラッと変わってしまいそうだ。
それほどにこの映画は信仰の力を、皮肉たっぷりに、逆説的に、そして衝撃的に描いている。
ベネデッタはその信仰の力をフルに使って上り詰め、生き延びようとする。
彼女が向き合うのは、欺瞞的な教会権力、そして圧倒的な男性優位社会だ。
彼女が終始一貫して発揮し続ける生命力と覚悟には、善悪の観念を超えて、凄烈な感動すら覚えてくる。
エロ、不道徳、暴力、バーホーベン監督による何にも囚われない大胆不敵な一連の描写は、何にも物怖じしないベネデッタ自身の強く自由な心そのものでもある。
既存のシステムの中で知らず知らず去勢されて猫のように大人しく穏やかに生きている現代人。
そんな多くの人たちにとってベネデッタの生き様はある種の劇薬になるだろう。
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