【レビュー】西部の“男らしさ”を巡る緊迫した人間模様―ベネディクト・カンバーバッチ主演作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』




『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン監督による同名小説の映画化作品が公開中だ。

第78回ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞した本作は、10月に開催された第34回東京国際映画祭でも一足早く上映されて好評を博した。

舞台は1920年代のアメリカはモンタナ州。

周囲に威圧的に振る舞うカリスマ的な兄フィル・バーバン(ベネディクト・カンバーバッチ)と対照的に地味で優しい弟のジョージ(ジェシー・プレモンス)は、兄弟で大牧場を経営して暮らしている。

特に不自由ない生活を送る兄弟だったが、弟ジョージが未亡人のローズ(キルスティン・ダンスト)に恋をしたことを契機に、ローズの息子ピーターも含めた4人の関係性が次第に変化していく。

旧態依然としたカウボーイである兄フィルを演じるカンバーバッチの演技が素晴らしく、その圧力ある存在感が物語を牽引する。

女性性を下に見る、いかにも古くて強い男というキャラクターのフィルは、ローズ母子や弟ジョージに対しじわじわとプレッシャーを与えていくのだが、このあたりの絶妙な描写が作品になかなかの緊迫感を与えている。

物語は、次に何か起こりそうな雰囲気を絶えず醸し出していて、最後まで一向に飽きさせない。

アメリカ西部が舞台の映画はこれまでそれこそ数限りなく制作されてきたが、そこはさすがのカンピオン監督。

原作小説があるとはいえ、本作のジリジリするような雰囲気、次第に明かされていく秘密、驚くべき展開の新規性には目を見張るものがある。

実は映画のタイトルの意味内容もそんな新規性に溢れた物語のテーマに関係するものだ。

また本作は全ての出来事を描かずに観客の想像に委ねる余白の部分も残しており、他方で設定自体はどちらかといえば直接的な描き方を多用してきた西部劇ということもあって、これらの化学反応が映画に不思議な新鮮さを与えている。

古き強い男が活躍するマッチョ系西部劇とは一線を画した重厚な人間ドラマである本作の魅力は聞くより観るが易し、自信を持ってオススメできる1本だ。

 

■Netflx映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中