【レビュー】違法くじに全てを託し走り続けるベトナムの少年―『走れロム』




『スラムドッグ$ミリオネア』がインドのスラム街を生き抜く孤児たちのたくましさを切り取ったように、本作はベトナムのホーチミンの集合住宅で生きる孤児の主人公の慌ただしい日常を疾走感豊かに描いたものだ。

主人公ロムは億万長者を夢見てTVのクイズ番組に出るわけではない。

ロムの仕事は地域の違法くじの当選番号の予想屋だ。

ロムの日常はいつだって違法くじに夢中になる庶民の生活と共にある。

ベトナムでは毎日当選番号が発表される正規の公共くじが存在するが、庶民の間で流行してるのはむしろこのくじに紐ついた違法な闇くじの方だ。

貧しい人たちが一発逆転を狙って闇くじに没頭し、財産を失い自殺者まで出る。

本作は、一人の孤児の少年の目を通して、ベトナムで現実に起きているシビアな社会問題に鋭く斬り込んでいく。

ベトナム雑貨、ベトナム料理、様々な観光地等々、日本でも親近感のあるベトナムという国。

一方でいろいろと制度運用上の問題が物議を醸している技能実習生の多くを日本に送り出している国もまたベトナムだ。

そんなベトナム本国における社会の闇はなかなかに根深い。

警察による恣意的な取り締まり、貧しい人たちに対する不条理な地上げ、生活改善を夢見てますます闇くじに溺れていく人間心理、ストリートチルドレンの日常。

社会問題を抱えた共産国家の中で、貧しさから抜け出せずにもがいている大人に囲まれながら、日々それこそ全身全霊で走り回る少年ロム。

その俊足はいつの日か彼を彼の願う未来まで運んでくれるだろう。

半ば祈るような気持ちでそんな風に思いながら観ていた。

 

『走れロム』

■監督:チャン・タン・フイ
■出演:チャン・アン・コア、アン・トゥー・ウィルソン
■プロデューサー:トラン・アン・ユン
■提供:キングレコード
■配給・宣伝:マジックアワー

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。