【レビュー】国際派女優たちの豪華共演で送るオリンピックのようなスパイアクション映画―『355』




2017年のカンヌ国際映画祭で審査員を務めていた女優のジェスカ・チャステインは、街中に貼られたアクション映画のポスターに写っている人物がどれもほぼ男性であることに気付いた。

やがて彼女はこんな強い思いに突き動かされることになる。

『ミッション・インポッシブル』『007』のような本格スパイアクション映画をオール女性キャストで作りたい。

この映画では、彼女を主演に、他にも世界中から4人の豪華女優がキャスティングされた。

ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ、ペネロペ・クルスにファン・ビンビン。

この総勢5人がアメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアからそれぞれ集結したエージェントとして、互いに争い、やがて世界を救うために協力していく。

女性のスパイアクション映画と言えばすぐ思い浮かぶのが『チャーリーズ・エンジェル』だろう。

キャストを新たに公開されたリメイク作も記憶に新しいが、ユーモアに比重が置かれた同作シリーズと比べると、本作はシリアス度が高く、アクションもリアルで迫力に満ちている。

女性の美しさや愛嬌を強調するのではなく、これまで男性がこなしてきたスパイアクションを女性キャストが正面から体当たりで演じる。

まさにジェスカ・チャステインの熱い想いと全キャストの強い共感が結実した、妥協のない作品になっている。

五大陸とは言わないまでも世界中から集結した美女の共演(饗宴)バトルは女性スパイのオリンピックのようでもある。

格闘技を得意とする熟練のCIA諜報員、そのライバルにもなるドイツの武闘派工作員、元MI67の天才ハッカー、コロンビアの心理学者、謎の中国人エージェント。

それぞれが得意とする分野も性格もバラバラに、家族や恋愛もシビアに巻き込みながら、彼女たちは目まぐるしい戦いに身を削りながら本当の敵を見定めていく。

全員が共闘する終盤の面白さもあるが、個人的には誰が敵かハッキリせずに互いに激しく争い合う前半に心を掴まれた。

女性のスパイアクションだからと舐めてかかると痛い目に合うぞ、と言わんばかりの強烈な出だしとそれに続く息もつかせぬ展開は、緊迫感に満ち溢れている。

彼女たちの豪華さに対応するかのように、闘いの舞台もパリ、モロッコ、上海と賑やかな街を贅沢に移り変わる。

『ジェイソン・ボーン』シリーズと同じ制作スタジオによる作品と聞けば、自ずと魅力的な海外ロケ地でのアクションへの期待は高まり、また安心感も湧くだろう。

タイトルになった『355』は、アメリカ独立戦争時代にジョージ・ワシントン大統領の諜報機関として活躍した実在した女性の“コードネーム355“に由来する。

未だに実名も不明な彼女のコードネームがタイトルにされた点について、ジェシカ・チャステインは「認識されない女性たちのパワー、強さ、達成したことに対する敬意」だと説明する。

考えてみると最近特に“男性の都合で女性同士が分断される社会の病理”に鋭く迫る映画を見る機会が以前より増えた気がする。

本作で彼女たちが示すのは、女の意地というよりは、女性に本来的に備わっている尊厳や誇りだろう。

それらをあの手この手で否定する男たちに対しては、優しく説いてあげるのではなく、容赦なく激しく身体に言い聞かせる。そんな彼女たちが痛快でとても心強かった。

 

『355』

■監督:サイモン・キンバーグ 
■出演:ジェシカ・チャステイン ペネロペ・クルス ファン・ビンビン 他
■配給:キノフィルムズ

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