【レビュー】心に去来する過ぎ去りし日の想い、巨匠ペドロ・アルモドバルの円熟の境地―『ペイン・アンド・グローリー』




『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥー・ハー』などの名作で世界的にその名を知られるペドロ・アルモドバル監督

70歳になるスペインの巨匠の最新作は、自身の生い立ちを振り返るような自伝的な作品だ。

心身共に老いて疲れた映画監督の主人公を演じるのは、アルモドバル作品に度々出演してきたアントニオ・バンデラス。

若い頃の気丈な母親役に、同じくアルモドバル作品の常連でミューズとも言えるペネロペ・クルス。

この2人を筆頭に名役者たちが紡ぎ出す物語は、創作意欲を失った映画監督が封じ込めていた自らの過去に向き合うことで生きる喜びや活力を取り戻す見事な人生賛歌。

これまで尖りに尖った衝撃的な作品を撮ることが多かったアルモドバル監督だが、今回は比較的穏やかなトーンで主人公の大人時代の現在と子供時代の過去を交互に描いていく――。

過去の栄光だけでなく痛みからも目を逸らさないことでこれまでの自分の人生を肯定しようとする高齢の主人公。

まさに本作がアルモドバル『ニュー・シネマ・パラダイス』とも言われる所以がここにある。

個人的にはアルモドバル作品にはまだまだ刺激やインパクトを求めているので、創作意欲を取り戻した劇中の主人公のように、これからも面目躍如とばかりに挑発的な映画をバンバン世に送り出してほしい。

 

『ペイン・アンド・グローリー』 あらすじ

脊椎の痛みから生きがいを見出せなくなった世界的映画監督サルバドール(アントニオ・バンデラス)は、心身ともに疲れ、引退同然の生活を余儀なくされていた。そんななか、昔の自分をよく回想するようになる。子供時代と母親、その頃移り住んだバレンシアの村での出来事、マドリッドでの恋と破局。その痛みは今も消えることなく残っていた。そんなとき32年前に撮った作品の上映依頼が届く。思わぬ再会が心を閉ざしていた彼を過去へと翻らせる。そして記憶のたどり着いた先には・・・。

■脚本・監督:ペドロ・アルモドバル
製作:アグスティン・アルモドバル
出演:アントニオ・バンデラス、アシエル・エチェアンディア、レオナルド・スバラーニャ、ペネロペ・クルス 他
配給:キノフィルムズ

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。