【レビュー】優雅に見える白鳥の想像を絶する舞台裏―『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』




白鳥はその美しく優雅な身のこなしと裏腹に、水面下では必死に足をばたつかせているという――

本作は、若く美しいロシア新体操界のスーパースター マルガリータ・マムーンにカメラが密着し、その華麗な演技の裏に隠された過酷な練習・指導の裏舞台をつまびらかにする。

マムーンを白鳥にたとえるとしても、ただの白鳥ではない。

彼女は世界選手権7冠、ヨーロッパ選手権4冠、2013年のユニバーシアード(学生のオリンピック)4冠、その他ヨーロッパ競技大会、ワールドカップ、グランプリ等で数々の優勝を達成している世界最高峰の新体操選手なのだ。

そんな上位一握りに属する特別な存在の白鳥が、序盤から鬼というか悪魔のようなコーチに罵倒の限りを尽くされる。

彼女のそんな扱われ方を見ていると、その本来のスター性や能力を完全に忘れてしまいそうになる。

まるでポッと出の新参者の技量も、未熟な選手がまだ見ぬ頂点を目指して特訓を受けているかのように勘違いしてしまう。

それほどにコーチの彼女への接し方が凄い。

この作品が新体操版『セッション』とかリアル『ブラックスワン』と言われる所以がここにある。

「あなたは人じゃない アスリートなの」

ひょっとしたら、天賦の才能に恵まれ何不自由なくチヤホヤされてるように見えるあのアスリートも、その人なりの地獄を生きているのかもしれない・・・

この映画を観終わった後に、ふとそんなことを思った。

 

『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』 あらすじ

「あなたは人じゃない。アスリートなの!」リタ(=マルガリータ・マムーン)は、新体操王国ロシアの代表選手。オリンピックに向けて、鬼コーチたちからの強烈な指導を受け、日々の練習に励む。アリーナ・カバエワなど、数多くのオリンピック金メダリストを育て上げたイリーナ・ヴィネルの指導は、特に精神面において厳しい。リタは優雅にリングをキャッチし、ボールを肩で転がすが、コーチたちは更なる高みを求め、何度も何度も繰り返させる。わずかな自由時間には、彼氏と電話で話したり家族と穏やかに過ごすが、すぐにまた激烈なトレーニングが始まる…。

■監督:マルタ・プルス 
■出演:マルガリータ・マムーン、イリーナ・ヴィネル、アミーナ・ザリポア、ヤナ・クドリャフツェワ
■配給:トレノバ、ノーム
■公開:近日公開

©Telemark, 2018

author avatar
毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。