【レビュー】ある夜を境にそれまでの日常を完全に失った2人の男の物語―『夜を走る』




この映画の監督は何とも人が悪い。

登場人物たちを焦燥と絶望の淵でさまよわせる物語の展開。

その出口の見えなさ加減は、本当に自分は観客で良かった、とさえ思ってしまうほどだ。

もちろん、その人の悪さは映画の面白さと完全に一致している。

日常にポッカリと開いていた落とし穴に落ちてしまい、運命(と言っていいのか)に翻弄される2人の男が主人公だ。

そんな2人は鉄屑工場で働く同僚。

真面目だが不器用で上司や取引先からもバカにされている独り身の秋本と、社交的で世渡りが上手な妻子持ちの谷口。

退屈で平凡な日常を送っているのいう点は同じな2人が、ある夜の出来事を契機に平凡とはほど遠い日常の幕開けを迎えることになる。

予定調和のストーリーの映画に少し飽きてるような人には特にオススメしたい作品だ。

皮肉の効いた笑えるセリフとともに繰り広げられる驚きの展開は、全くどこに行き着くか分からない面白さに満ちている。

登場人物たちの行動が裏目に出てどんどんドツボにはまっていく中で、誰にも成長が見られない様子が何故かまた妙にリアルだ。

誰もが自分なりに考えて行動しているようで、その実深く顧みることができずにその浅はかさから全然抜け出すことができていない。

そんな様子の描写はもはや人間の愚かさを分かりやすくデフォルメしたかのようだ。

監督はまさに鉄屑工業で機械的にリサイクル処理される「鉄屑」のように人間を描いている。

それは映画を面白くするためなのか。

それとも人間とは所詮そんなものという確信があるのか。

もしかするとその両方かもしれない。

そして、夜をあてどなくさまよう車ですら、中身は所詮鉄屑の塊だと思えてしまうのだ。

とにかく人をひたすらに迷走させるブラックユーモアのセンスが抜群だ。

登場人物たちがまるで工場の鉄屑のようだとしたら、監督はさしずめ全てを俯瞰した工場長といったところか。

こんな映画はなかなかお目にかかれない。

 

Ⓒ2021『夜を走る』製作委員会