【レビュー】過激な思想と厳格な戒律に自らを染めた少年が辿る心の放浪―『その手に触れるまで』




静かで淡々とした作風ながらも力強いテーマ性で観客の心を鷲掴みにしカンヌ映画祭の常連でもあるベルギーの名匠、ダルデンヌ兄弟。

その最新作は、イスラム教の過激な思想に取り憑かれてしまった少年アメッドの物語。

アメッド自身はその実どこにでもいそうな少年だ。

ただ、彼は自身が尊敬する指導者に強い影響を受けて学校の教師や家族に平気で反発する。

年齢的に視野も狭く経験も浅いアメッドの盲目的ともいえる信仰の実態は、劇中では決して大胆に取り扱われることなく、日常的な行動の中にさりげなく描かれる――だからこそ妙なリアリティが伴う。

それでもついに超えてはならない一線を超えようとするアメッド。

アメッドの目を覚まさせようと努力する母親、学校の教師、施設の職員・・・

しかしそこは良くも悪くも宗教が持つ力の強さというべきか、アメッドが抱いてしまった危険な考え方を完全に取り除くことは困難を極める。

強い信仰心から日々の祈り、禁忌への対応、全てを真面目にこなしているはずのアメッド、なのにその落ち着いた目が暗く少年特有の生気を感じさせないのは何故か?

初めての経験に触れて戸惑いを隠せず目を泳がせてしまうアメッド、むしろその動揺した目の中にこそ明るく新鮮な生命の兆しを見て取れるのは何故か?

少年が理屈ではない生の痛みと困難を経験する時、その頭に浮かぶ存在はアラーなのか、それとも他の誰かなのか・・・

その傷ついた心がその口をして叫ばせる存在は誰なのか。

ダルデンヌ兄弟は、宗教をも超えた高みから生き物としての少年を優しく丸裸にしてみせる。

その視座は逆説的に言えばまさに神の視点にも等しい場所にある。

観客は、そんな視座を通して、自分たちがみな等しく親から生まれた人間であり他者と共存する生き物であることを心で理解することになるのだ。

 

『その手に触れるまで』

■監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
■出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン
■配給:ビターズ・エンド

© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF