【レビュー】さかなクンの人生の驚くべき映画化―『さかなのこ』




みんなに愛されるさかなクンの自叙伝をベースにした映画と聞けば、俄然興味が湧く人も多いはず。

だがやっぱり一番の問題はキャストだろう。

あの強烈な個性と雰囲気を体現できる人物が当の本人以外に誰がいるというのか。。。

そんな問題を沖田修一監督は「のん」の主演起用で軽々と(少なくともそう見える)乗り越えてみせる。

沖田監督が明確に意図するように、この映画は性別なんかは問題にしておらず、それよりも「何かに熱中し続ける人」の魅力と影響力にこそ焦点を合わせている。

思えば、お魚まっしぐらのさかなクンも純真さ溢れるのんも、ともに中世的な魅力があり、どこか性別からも離れたところにいるような雰囲気を漂わせている。

何より二人とも広く万人に愛されるキャラクターだ。

実際に映画を観てみると、さかなクンのようでさかなクンではない主人公「ミー坊」にはのん以外の適役はいない!と思えるほどのハマり具合で全く不自然さを感じさせない。

古い例えだが、昔のTVドラマ「西遊記」で三蔵法師役に夏目雅子を起用した時のようなしっくり感があるのだ。

古すぎるうえに例え自体もしっくりこない気がしてきたが、それはこの際置いておこう。。。

空前の大ヒットドラマ「あまちゃん」以来のんが海に潜るシーンが見られるのもなかなか感慨深い。

じぇじぇ!かギョギョ!の違いはあれど、周囲の人たちを問答無用に魅了するのんの魅力は、またしても大きすぎるほどの説得力をもって観客の心にしっかりと届くだろう。

歳を取っても変わらないミー坊から何らかの影響を受けて人生を変化させていく脇役たちも魅力的だ。

幼なじみの不良ヒヨを柳楽優弥が、不良の総長に磯村勇斗が、ミー坊の家に転がりこむシングルマザーのモモコを夏帆が演じる。

他にはミー坊をミー坊たらしめたと言っても過言ではない一番の理解者・協力者の母親を演じる井川遥の存在感も素晴らしい。

極め付けは、さかなクン自身が重要なキャラクターとして登場し、持ち前の明るさと楽しさを発揮しつつも、笑い半分切なさ半分といった絶妙な雰囲気を映画に添えるのだから、なんとも贅沢なキャスティングだ。

雰囲気と言えば、さかな君の純粋な魚愛に彩られた人生を純真さ・ひたむきさを素で体現できるようなのんがなぞっていくその物語は、何とも言えない幸福感に満ちている。

それは登場人物たちだけでなく、監督を含めた製作陣もこの映画自体もどうやらさかなクンとのんの真っ直ぐでぶれない大きな魅力に完全に包まれてしまったかのようだ。

その幸福感は陽光が差し込む穏やかの海の中のようで、いつまでも浸っていたいような居心地の良さだ。

 

(C)2022「さかなのこ」製作委員会