この映画の公開は、映画界と世界中のSFファンを興奮させる1つの事件だ。
原作はフランク・ハーバートが書き上げた20世紀が誇る傑作SF小説、その影響を受けたSF作品は、『スター・ウォーズ』『風の谷のナウシカ』『アバター』『トレマーズ』『漂流教室(楳図かずお)』と多数に上る。
この『DUNE』、1975年にはアレハンドロ・ホドロフスキー監が映画化を試みるのも失意のまま頓挫し、1984年には今度はデヴィッド・リンチ監督が映画化に成功するが一般的な評判としては失敗作の烙印を押されてしまうという、いわく付きの経緯もあった。
そんな映画界でも垂涎ものの作品を今回改めて映画化したのは、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督。
衝撃作『灼熱の魂』、SF原作の映画化『メッセージ』、SF古典のリメイク『ブレードランナー2049』と撮る作品がどれも並々ならぬ評価を集める名匠だ。
ドゥニ監督による映画化というだけでも自ずと期待が高まる中、キャストもまた贅沢だ。
現在飛ぶ鳥を落とす勢いの美男子ティモシー・シャラメを主演に据えて、大活躍中の旬な俳優から大御所まで新旧実力者揃いの見事な役者が脇を固める。
加えて音楽は、『ダークナイト』や『ダンケルク』でも重厚な世界観の構築に大きく貢献したハンス・ジマー。
集結した数々の才能ある人材からもドゥニ監督の本気度が伝わってくる。
これだけ期待のハードルを上げたとしても映画を観てその期待が裏切られることはない、とあえて断言したい。
裏切られるのは、SF映画体験についての一般常識というべきか。
素晴らしい俳優たちが壮大かつ重厚な世界観にしっかり身を沈めて織りなす物語は、圧巻の一言。
その現実を忘れてしまう没入感はSF映画の中でも稀有の部類に入るだろう。
例えば、『スター・ウォーズ』のフォースとも異なる力、「声(ボイス)」の神秘と怖さ。
空を飛ぶ乗り物のその初めて目にするようなフォルム。
惑星を覆う圧倒的な量の美しい砂と、抗えないような迫力で容赦なく響き渡るハンス・ジマーによる音響。
その全てが作品を魅力的に彩る。
親から子に受け継がれるもの、異世界との出会い、大人への成長と自己変革。
SF作品に限定されない普遍的な人間の物語をしっかりと描き込みつつも、これを鮮やかに彩るのはやはり端的に観る者の心に迫る映像の美しさと迫力だ。
共感性の高い人間の物語を入れる「器」としての世界の描写が素晴らしすぎて、観客はどっぷりと違和感なく物語に身を置くことができる。そう、まるで砂漠の砂にあっという間に身を取られてしまうように。
このコロナ禍では以前のように旅行もままならず、非日常の体験がもたらす刺激から縁遠くなっているかもしれない。
そんな閉塞感やストレスの解消作として、この驚異の「砂の惑星」体験を手放しでオススメしたい。
『DUNE/デューン 砂の惑星』あらすじ
全宇宙から命を狙われる、たった一人の青年、ポール・アトレイデス。彼には“未来が視える”能力があった。宇宙帝国の皇帝からの命令で一族と共に、その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる、過酷な<砂の惑星デューン>へと移住するが、実はそれはワナだった!アトレイデス家と宇宙支配を狙う宿敵ハルコンネン家の壮絶な戦いが勃発。父を殺され、巨大なサンドワームが襲い来るその星で、ポールは全宇宙のために立ち上がるのだが…
■監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
■脚本:エリック・ロス ジョン・スペイツ ドゥニ・ヴィルヌーヴ
■原作:「デューン/砂の惑星」フランク・ハーバート著(ハヤカワ文庫刊)
■出演:ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン オスカー・アイザック ジョシュ・ブローリン ステラン・スカルスガルド ほか
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