【レビュー】権力に対峙するジャーナリズムの真価を描いた傑作ドキュメンタリー『コレクティブ 国家の嘘』




遠い外国の話だが日本でも決して他人事では済まされないような衝撃のドキュメンタリー作品が公開されている。

権力の腐敗に迫る過程を克明に映し出したその完成度に、世界中で称賛の声が止まず、アカデミー賞では国際長編映画賞と長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたほか、世界中で数々の映画賞を受賞している。

2015年、ルーマニアにあるライブハウス「コレクティブ」で火災が発生し、その場で多くの命が失われた。

しかし事件はこれで終わらず悲劇はさらに続く。入院して治療を受けていた被害者の多くが次々と病院で亡くなっていったのだ。

この不可解な連続死に強い疑問を持ったスポーツ新聞の記者がその謎を追い始める。

こうして、国家の腐敗そのものに繋がる巨悪の医療汚職事件が次第にその輪郭を現し始めるのだった。

権力の闇を暴こうとする記者の信念は強く揺るがない。

「メディアが権力に屈したら国家は国民を虐げるのです。」

命懸けで取材と情報発信を続けるジャーナリストとしての姿は、静かに燃える青い炎といった感じで、その消えることのない熱量に観客はぐいぐきと引き込まれるだろう。

内部から嘘を暴き出し変革を試みようと保健大臣に就任する若い青年の存在も魅力的だ。

何よりも凄いのは、大臣の記者会見、メディアの取材、保健省の内部会議、その一部始終をカメラがしっかりとレンズに捉えていることだ。映像の力がストレートにものを言う。

見ているうちに自ずとどこかの国と対比してしまうだろう。

予め用意された台本を読み上げる国側の記者会見、予定調和の域を出ないメディア側の質問、あるいは質問自体の制限。

ルーマニアのような国家絡みの医療腐敗など存在しないとして、日本の方が国として成熟していると結論付けるのはあまりに安易だ。

ジャーナリズムの矜持を描いた映画『新聞記者』も記憶に新しいが、日本も官邸の取材制限等を含め情報自体が隠蔽されやすい体質を今なお引きずっている。

本作が正面から伝えるジャーナリズムの力、映像の力は、ルーマニアのみならず日本を含む世界のすべての国に住む人たちへの強烈なメッセージになり得る。

映画の余韻とともに感じたのは、日本でも「襟を正す」どころか、メディアによる権力に対する不断の監視をもっと推し進めなければならないという確信だった。

劇薬のような感動と気付きをもたらす本作、是非多くの人に見てほしい。

 

『コレクティブ 国家の嘘』

■監督・撮影:アレクサンダー・ナナウ
■出演:カタリン・トロンタン、カメリア・ロイウ、テディ・ウルスレァヌ、ヴラド・ヴォイクレスクほか
■配給:トランスフォーマー

©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。