【レビュー】世界一過酷な格闘技”ラウェイ”に迷い込んだ(迷い出た)男たち―『迷子になった拳』




「地球上で最も危険な格闘技」と称される格闘技がある。

ミャンマーで古代から伝統的に受け継がれてきた国技”ラウェイ”だ。

拳にはグローブではなくバンテージのみを巻き、寝技を除く関節技・投げ技・頭突きまでもが許され、故意ではない金的であれば反則にならない。

神事もしての側面も強く、最後に2人ともリングに立っていれば2人ともが勝者となる。

この映画はそんな過酷すぎる格闘技ラウェイに挑戦する主に金子大輝、渡慶次幸平という2人の日本人に密着したドキュメンタリーだ。

日本ではK-1、RIZIN、ボクシング、キックボクシング等々メディアへの露出も多く華々しい格闘技が隆盛を極める中、ラウェイは一部の格闘技ファン以外にはあまり知られていない。

その意味で金子や渡慶次が歩む道は格闘技界の王道とは言い難く、表舞台からは外れている。

挫折感、焦燥、不安、期待、複雑な感情を抱えながら、とても一筋縄ではいかない格闘技ラウェイに男たちが挑む様は人間味に溢れ泥臭く、その生々しい努力や想いをカメラは丹念にすくっていく。

格闘家としての胆力だけでなく人間としての不器用さが神の格闘技の中で露わになっていくというギャップ、それはこの映画を非常に魅力的なものにしている要素の1つだ。

2人をはじめとするラウェイに取り憑かれてしまった人たちの言葉や表情。

何かに熱中する人間の姿は、何かにくすぶっている全ての人間の心を打つ。

易々と何かを達観できるほど人間はできていない。

絶えず迷いながらもがむしゃらに生きる人間の姿は、もしかすると同じ人間だけでなく格闘技の神様の心さえも掴むのかもしれない。

 

『迷子になった拳』

拳にはバンテージのみを巻き、通常格闘技の禁じ手がほとんど許される「地球上で最も危険な格闘技」と言われるミャンマーの伝統格闘技・ラウェイ。そんなラウェイに挑戦する選手や大会関係者を2016年から追う。そこにいたのは、体操選手の夢敗れた金子大輝や、出戻りの渡慶次幸平など、いわゆる“格闘技エリート”の姿はなく“迷子”の人々だった。高いミャンマーラウェイの壁に挑む彼らの頬に流れるのは、血か汗か涙か…?

■出演:金子大輝、渡慶次幸平、ソー・ゴー・ムドー 他
■監督:今田哲史

©映画「迷子になった拳」製作委員会