【レビュー】長澤まさみの空虚な目は何を物語るのか──実際の事件をベースにした『MOTHER マザー』




親子とは一体何なのだろうか──。

そんな問いがずっと重く頭の中に浮かび続けた。親子の数だけ、そこにある愛情の形は違う。

長澤まさみ演じるシングルマザーの秋子は、奥平大兼演じる息子・周平に対し、客観的に見ると冷酷な仕打ちをし続けている。

でも周平は、愛に飢えた母の心を理解しているかのように、常に従順だ。

解放に導いてくれようとする児童相談所の職員との仲を裂かれようとも、熱心に取り組んでいた勉学を取り上げられようとも、何度も居場所を転々としようとも、妹を人質に脅されようとも、自身に執着する母の手を振り払うことはしない。

周平が希望に少しでも触れると、それはすぐに秋子の手によって刈り取られ、また暗闇の中で彷徨う日々が再開する──そう他人からは見える。

一方、母・秋子は、意中の男性が存在しているときは周平をないがしろにし、遊びに夢中だ。

恋人が周平を虐げても、その様子を笑って眺め、周平を使って金銭を手に入れようとする。

自身の親は自分より妹に愛情を注いだ──そんなトラウマから愛に乾き、「自分が産んだんだからどうしようと勝手」という理屈で周平を所有物のように扱う。

そんな共依存の関係性はとても歪に見えるが、そこには当の親子同士にしかわからない連帯と愛情が存在しているのだろう。

実際に起きた凄惨な事件をベースにした本作。

長澤まさみの凄みすら感じる空虚な目が、その愛情の形を物語っているようだ。

 

『MOTHER マザー』 あらすじ

男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきた秋子。シングルマザーの彼女は、息子の周平に奇妙な執着を見せ、忠実であることを強いる。そんな母からの歪んだ愛の形しか知らず、翻弄されながらも応えようとする周平。
彼の小さな世界には、こんな母親しか頼るものはなかった。やがて身内からも絶縁され、次第に社会から孤立していく中で、母と息子の間に生まれた“絆”。それは 17 歳に成長した周平をひとつの殺害事件へ向かわせる……。
何が周平を追い込んだのか?彼が罪を犯してまで守ろうとしたものとは—?事件の真相に迫るとき、少年の“告白”に涙する。

■出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花
■監督:大森立嗣
■脚本:大森立嗣/港岳彦
■配給:スターサンズ/KADOKAWA

Ⓒ2020「MOTHER」製作委員会