【レビュー】若かりし巨匠の苦悩と葛藤の果てに名曲が産声をあげる―『剣の舞 我が心の旋律』




クラシックの名曲「剣の舞」――この曲名にピンとこない人ですら、日本では例えば運動会などでは誰しも聴いたことのあるテンポの早い有名な曲だ。

本作は旧ソ連の巨匠アラム・ハチャトリアンがこの名曲をひと晩で書き上げたという、その驚くべき誕生秘話に迫る。

ジョージアに生まれたアルメリア人であるハチャトリアンは、旧ソ連で著名な音楽家として活躍していた。

ところが、舞台劇用に彼が作曲した曲に対し文化省の役人からの検閲が入り、政治的な注文を受ける。

純粋な芸術家として当然に苛立ちを募らせるハチャトリアン。

折しも粛清の余韻がまだ残る時代の旧ソ連、省庁の役人の芸術への口出しはこれが不当でも完全に無視はできない。

さらに、役人のハチャトリアン本人に対する個人的な悪感情が加わり、舞台に関わる女優や演奏家も不条理な形でこれに巻き込まれることに・・・

その時、ハチャトリアンの音楽家としての矜持とアルメリア人としての民族の誇りが結晶する。

何度もそのメロディを耳にしたことのある「剣の舞」、実は2分半と実に短い曲だ。

その短い間に、世界の全ての不条理や悲劇に対する抵抗の意思が音符となって激しく踊るとき、この曲がほどなく世界を駆け巡る宿命を決定的に手にするのだ。

 

『剣の舞 我が心の旋律』

■出演:アムバルツム・カバニアン、ヴェロニカ・クズネツォーヴァ、アレクサンドル・クズネツォフ 他
■監督・脚本:ユスプ・ラジコフ
■プロデューサー:ルベン・ディシュディシュヤン、カレン・ガザリャン、ティグラン・マナシャン

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