【レビュー】聖職者による性被害を白日のもとに晒すノンフィクションー『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』




フランスで実際に起きたカトリック教会の神父による児童性的虐待事件。

まだ無垢な少年たちが、ボーイスカウトのキャンプ等で本来は指導者であるべき聖職者の性欲の餌食になるという驚くべき事件。

この衝撃的な実話に基づき制作された本作は、被害者たちのその後の人生や心の傷、心情に焦点を当て、その告発に至る過程を丹念に描いたものだ。

同じような題材の映画としては、アメリカのカトリック司祭による性的虐待事件に関する報道の顛末を描いた映画『スポットライト 世紀のスクープ』が大きな話題を呼んだのも記憶に新しい。

同作は報道側の信念や取材努力に焦点を当てた作品だった。

この点、本作はあくまで被害者の生の感情や被害団の輪の広がりを事細かに描く

被害者らにはそれぞれの人生があり、家庭があり、葛藤がある。

被害者に微妙な感情の揺れ動きや覚悟を決めて告発を決意するまでの経緯にぴたりと寄り添うことで、その何十年も経過してもなお癒えない傷が心の奥底に深く刻まれていたことを明らかにする。

新たな被害者が一人また一人と加わって被害団が大きくなり「教会の沈黙」は決して許さないと団結していく様子は力強さに溢れている。

一方で、納得のいく謝罪や反省の態度を示さない加害者の神父やのらりくらりとした対応に終始する教会サイドの動きは観る者に歯がゆさを与えるだろう。

信仰、家族、恋愛、人間関係、幼い頃の被害がその後の人生に大きく影を落とす悲劇を正面から描きつつ、フランスにおける教会の体質、社会体質それ自体をもえぐってみせる、まさに大人の社会派のドラマだ。

 

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』 あらすじ

妻と子供たちと共にリヨンに住むアレクサンドルは、幼少期に自分を性的虐待したプレナ神父が、いまだ子供たちに聖書を教えていることを知り、家族を守るため過去の出来事の告発を決意する。最初は関りを拒んでいたフランソワ、長年一人で傷を抱えてきたエマニュエルら、同じく被害にあった男たちの輪が徐々に広がっていく。しかし、教会側はプレナの罪を認めつつも、責任は巧みにかわそうとする。アレクサンドルたちは信仰と告発の狭間で葛藤しながら、沈黙を破った代償──社会や家族との軋轢とも戦わなければならなかった。果たして、彼らが人生をかけた告発のゆくえは──?

■監督/脚本:フランソワ・オゾン
■出演:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、ジョジアーヌ・バラスコ 他
■提供:キノフィルムズ

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