【レビュー】レストランの一夜の激しすぎる内幕にひたすら迫る―『ボイリング・ポイント/沸騰』




日頃の嫌なことも忘れて親密な人とともにひと時の美食に身も心も浸る。

そんなレストランの通常の楽しみ方とは180度違った、「レストランを楽しむ」映画の誕生だ。

これまでレストランの内幕を描いた映画としては『ディナーラッシュ』などもあるが、本作は描き方の勢いが違う。

90分間全編通して編集無しのワンショット。

ディナーのフルコースの美味しさが途切れないのと同様に、いやそれ以上に臨場感と面白さが全く途切れない。

監督は自身も12年間シェフとして働いた経験があるイギリスのフィリップ・バランティーニ

国内レストランにおける劣悪な労働環境に問題意識を持ち、一般人の意識を変えるべく同名の短編映画が製作したところ、好評を博した。

その短編が長編映画化されたのが本作だ。

ロンドンの実在するレストランを借り切って撮影され、俳優たちの即興の演技もふんだんに取り入れられた。

厨房からホールまでレストランの忙しすぎる一夜を、それこそ忙しすぎるカメラワークと矢継ぎ早のセリフの応酬で見せる。

とにかくシェフからスタッフ、全員が従来から、あるいはその日の調理や接客との関係で、難しい問題を抱えている。

優雅に?料理を楽しむ顧客の立場とは裏腹に、レストランの運営側としては、次から次へと問題が勃発していつ時限爆弾が爆発してもおかしくないような状況下へ加速度的に引きずり込まれていく。

一同が否応なく向かう先は、まさにタイトルでもある「BILING PONTO:沸点。限界。怒りの爆発」だ。

観る者は物語というより目まぐるしく動く現場の世界に完全に没入し、もしかすると飲食業界で働くことを躊躇してしまうかもしれない(これは映画の意図するところではないが、ある意味、監督が訴えたいメッセージとリンクする)。

この映画を観た後は、訪れたレストランの厨房が忙しそうにしているとこれまで以上につい目が行ってしまうかもしれない。

料理以外の人間関係やハプニングのドラマを、こんなにも刺激的なコースで提供してくれる「レストラン映画」はおそらく唯一無二だろう。

 

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