【レビュー】アメコミ愛に溢れるアクションコメディの感動作?―『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』




アニメ「シティハンター」の忠実なフランス版実写映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』の監督・主演を務めて評判となったフィリップ・ラショーがまたやってくれた。

今回もアクションコメディで再び監督・主演を務める。

アメコミヒーロー映画のパロディーをベースに、くすぶった人生を送っていた主人公の成長譚を笑い満載で描いた。

警察署長の父を持つセドリックは売れない役者だが何とか新作ヒーロー映画『バッドマン』の主役の座を射止める。

だが初日の撮影後に倒れた父が搬送された病院へ映画の衣装を着たままバッドモービルへ急行することになり、運悪く道中で交通事故に遭って何と記憶を失ってしまった。

自分が何者かすら忘れてしまったセドリックは手元にあるいくつかの映画の撮影アイテムから自分が実在のヒーローだと勘違いしてしまう。

父親が警察署長という設定やセドリックの友人たちのキャラクターが、加速度的に深まるセドリックの誤解や暴走を大いに盛り上げる。

違う自分に生まれ変わって一発逆転したいという彼の日頃の強い願いが、記憶喪失に起因して結果的には主観的に叶えられるというストーリーは皮肉で笑えるがちょっぴり切なくもある。

そんな心の機微をきちんと掴んで離さない物語の展開力がまた見事だ。

そして物語は予定調和ではなく想像の斜め上へ向かって進んでいく。

『トイ・ストーリー』で自分は空を飛べると信じていたバズ・ライトイヤーをふと思い出した。

たとえ勘違いしていたとしても、たとえ周囲には滑稽に見えても、まっすぐな心で何かに向かって突き進んでいく者は誰しもみんなヒーローだ。

フランス流の笑いを要所要所に散りばめながら、たくさん笑ってノーガードになった観客の心に見えない角度から感動をぶち込んでくるから、この映画は本当にニクくてズルい。

タイトルや予告のバカさ加減すらすべてフリに思えてくるから本当にズルい。

 

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