【レビュー】80年代のレガシー的作品がさらなる進化を遂げて帰ってきた―『トップガン マーヴェリック』




アメリカ海軍に所属するパイロットの上位1パーセントだけが入ることのできる誇り高き養成所、トップガン。

晴れて入所を果たした主人公マーヴェリックの挑戦、挫折、成長と恋愛を描いたアクション映画『トップガン』が公開され、世界的な大ヒットを遂げたのは1986年のことだ。

この映画で一躍世界的スターとなったトム・クルーズが演じたマーヴェリックは、時に周囲に向こう水と非難されるほど直感で大胆に戦闘機を操る天才パイロットだ。

彼の若さや万能感が眩いばかりに輝いていて、今観てもなおその魅力にはクラクラしてしまう。

名匠トニー・スコットの監督作品なので面白いに決まってる!と個人的には叫びたいところもあるのだが、映画の内容に完全にマッチしたテーマソングも流行し、何よりも全編を包む80年台特有の空気感が最高だった。

加えて、映画公開後に米海軍航空隊への志願者が5倍に増えたというエピソードも有名だ。


そんなレガシーとも言える前作の説明に文字数を使いすぎてしまったが、さてここからが本題。

36年もの時を経てその続編が絶賛公開中なのだ。

トニー・スコット監督は約10年前に既に亡くなっていて、トム・クルーズは今や60歳になろうとしている。

前作が一大ブームを巻き起こしただけに、しかもこれだけ長期間を置いて公開される続編ということもあり、自ずと期待は高まる一方、評価のハードルが上がってしまうのも無理はない。

しかし、蓋を開けてみると、これが大満足の内容で何とも嬉しい限り。


前作『トップガン』を復習してから観に行くことを強くお勧めしたい。

もしくは本作を観た後、その余韻があるうちに前作を改めて観るのもいいかもしれない。

ただし、後者の場合は、映画館に本作の2回目を観に行きたくなるというトップガン・ループに陥る可能性もあるのでご注意を。

本作の主演だけでなくプロデューサーも兼ねたトム・クルーズは、長年にわたり機会をうかがい、満を持して本作を世に送り出したと言っていいだろう。

その徹底したこだわりぶりは自身だけでなくパイロット役の他のキャストにも徹底的な飛行トレーニングを積ませて撮影に臨み、6台ものIMAXカメラをコックピットに搭載して迫力ある飛行映像を生み出すことに成功した。

そのアクションシーンの進化は、まさにマッハに到達する飛行速度の進化と同じく、目を釘付けにされる。

他にも前作の魅力はいろいろと引き継がれている。

カワサキのバイク、革ジャン、サングラス、ビーチでのスポーツ等、お馴染みのアイテムやシーンがオマージュのように画面を彩る。

ファンであれば、自身の人生における36年という時の経過も噛みしめながら、懐かしさと失われない輝きに酔いしれるはずだ。

単なるアクション映画ではなく、人と人のエモーショナルな繋がりを描いた作品としての魅力ももちろん健在だ。むしろそれが中心にあると言っていい。

何よりも過去に父親を戦闘機の事故で亡くしているマーヴェリックが、前作において墜落事故で亡くした相棒グースの息子を訓練する教官の立場になるというストーリーは、観る者の心を大きく揺さぶる。

それぞれが心に抱き続ける想いが互いの関係をどのように変化させていくかは映画の大きな見どころの一つだろう。

スターウォーズファンが映画が始まって1秒で興奮するように、実は自分も本作の冒頭から興奮して泣きそうになってしまったのだが、本作は前作の魅力を確実に引き継ぎながらもさらなる高みへと観客を連れていってくれる。

まさに重いGに耐えつつマッハの限界速度まで加速して上昇していくF-18のように、映画は右肩上がりの面白さを見せていくので是非とも期待してほしい。

自分は何か、ではなく、自分は誰か。

悲しい過去を背負った人間たちが仲間を信じて、そして誰よりも自分を信じて、勇気を持って未踏の境地に踏み出していくドラマは万人の心を掴んで離さない。

 

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