世界三大珍味の一つ、白トリュフ。
その中でもイタリアのアルバ産白トリュフは、世界で最も希少で高価な食材としてあらゆる美食家たちの舌を唸らせてきた。
では、高級レストランのメニューでしか目にすることのできないこの食材は一体誰がどこでどのように見つけて採取しているのか。
普段あまり考えることもないそんな疑問に答えてくれるこのドキュメンタリーは、想像だにしなかった魔法のような世界の扉を開いてくれる。
舞台となるのは北イタリアのピエモンテ州の小さな村だ。
そこでは白トリュフを探しに夜な夜な愛犬とともに森の奥深くに入っていく妖精のような老人たちがいた。
栽培できず、育成の謎も解明されていない白トリュフを、彼らは伝統にのっとり犬と一緒に探し当てる。
気候変動、森林破壊、農業汚染により年々手に入りにくくなっている白トリュフが実る場所を、彼らは決して人には明かさない。家族や親しい友人にさえも。
写真家でもあるマイケル・ドウェック監督は、実に3年間にもわたりそんな彼らの生活に入り込んで信頼関係を築き、一連の映像を撮影することに成功した。
そこに映し出された世界は、高価な白トリュフの価値でも計れないほどの、まさにプライスレスな「人の生き方」だった。
魅惑のトリュフハンターたちは皆80歳を超える高齢者だ。
ある者は妻に身体を心配され夜に森に入ることを強く反対されるが、愛犬とともにこっそり家を抜け出し白トリュフの魔力に吸い寄せられる。
ある者は唯一の家族である愛犬を子供のように大切にし、いつも話しかけながら一緒にトリュフ料理を食べている。
ある者はトリュフを狙う商業主義に反発し、惜しまれつつもトリュフ狩りから引退してしまった。
皆に共通するのはトリュフに対する情熱と、その地で自然に寄り添い暮らすシンプルな生活スタイルだ。
高齢でありながらトリュフに今でも魅せられている彼らは皆驚くべき若さを保っている。
現代のテクノロジーから遠く距離を置いたその質素で簡素な生活は、トリュフ狩りという宝探しの魅力と相待って、どこか夢の国に暮らしているような不思議な雰囲気を醸し出している。
現代人が真似できないが、どこかで強く憧れてしまう本来的な人の営み。
シンプルな情熱に彩られたシンプルな暮らし。
希少価値の高いアルバ産白トリュフのハンターたちを追ったこの映画が、現代において何よりも希少な人の生き方やある種の理想郷的な世界を垣間見せてくれるという紛れもない事実。
この映画の世界を覗き見た人は、幸福なことに、これからはアルバ産白トリュフを食べる機会ごとに、その背景にあるロマンも噛み締めずにはいられなくなるだろう。
最後に一つ、個人的なことで恐縮だが、自分の福岡の田舎にある実家の裏山では毎年春にタケノコが採れる。
肉眼で見つけるのではなく足を地面に引きずりながら足の裏の感触で見つけるということを亡くなった祖父に子供の頃に教わってタケノコ狩りを楽しんだ良い思い出がある。
タケノコのシーズンに子連れで帰省することを最近検討してた矢先にこの映画を観る機会があり、トリュフの希少価値とは比べものにはならないものの、映画を見終わって自分の中でワクワクする気持ちが確実に前にも増していることに気がついた。
良くも悪くも生き方が錯綜してしまった現代社会で、シンプルな宝物に気付かせてくれる映画は、それ自体宝物のように貴重だと感じた。
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