【レビュー】田舎の農場で恐怖の奈落へ突き落とされる―戦慄のホラー『ダーク・アンド・ウィケッド』




良質のホラー映画が最近立て続けに公開されているが、ここにきて謎解きやカタルシスとは無縁の純度の高すぎるホラーが公開される。

その恐怖の背景事情は判然とせず、そこから逃れる明確な手立てもない。

ただ、抗いようのない邪悪なものに闇に引きずり込まれるだけ。

まさにダーク・アンド・ウィケッド(暗くて邪悪な)としか言いようのない戦慄の描写と展開。

そもそもホラーとは不条理だと言わんばかりのその内容は、ホラーファンを十分に唸らせるに足るものだ。

設定とストーリーはいたってシンプルだ。

病気の父親を看取るために、農場を経営している実家に姉弟が帰郷する。

ただ、父親を看病していた母親の様子は明らかにおかしく、子供たちの帰郷を喜ぶ素振りもない。

ほどなく母親が原因不明の自殺を遂げ、それはその後に姉弟を次々を襲う恐怖の幕開けだった。

登場人物は少なく、助けを求める相手は少ない。

田舎の農場という設定が恐怖を増大させる。

人が少ない一方、農場にはヤギや羊といったたくさんの家畜がいるのだが、それらは一体何を考えているか分からない表情を見せ、時に集団で狂ったように走り惑う。

それはまさに動物がその勘で人間より真っ先に邪悪なものの存在を感知したかのようであり、動物の存在は癒しとなるどころか、むしろ「狙われる存在」としての人間の孤立感・無力感を深めていく。

姉弟は住んでいた都会に簡単に逃げ帰ることはできない。何故なら寝たきりの父親だけ一人実家に残せないからだ。

家族の結びつき、この人間らしい感情をあざ笑うかのように、その正反対の存在である邪悪な何かは容赦なく迫り来る。

しかも、少しづつ外堀を埋める形で。まるで無力な子供をゆっくりいたぶるように。

全編通して耳から即座に恐怖を煽る音響も素晴らしい。

家畜の鳴き声、羊小屋に張り巡らされた鈴の音、じわじわと大きくなる不穏な効果音。

少しづつ肌寒い季節になってきたが、一気に寒気を覚えるような経験をしたいならこの映画に決まりだ。

 

『ダーク・アンド・ウィケッド』

■監督・脚本・製作:ブライアン・ベルティノ
■出演:マリン・アイルランド、マイケル・アボット・Jr、ザンダー・バークレイ
■配給:クロックワークス

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