【レビュー】最後の任務で失うのはキャリアか、それとも良心か?―『ウォーデン 消えた死刑囚』




イラン映画の勢いが止まらない。

主人公は刑務所の所長。昇進を控えた彼の最後の任務は、刑務所の移管に伴う囚人たちの移送だった。

ところが移送手続の合間にひとりの死刑囚が忽然と姿を消してしまう。

一人でも脱獄者を出すとキャリアを棒に振ってしまう主人公は、焦りも隠さずに必死の捜索に奔走する。

死刑囚を知る囚人たちの証言、彼を担当していた若く美しい女性ソーシャルワーカーの協力、彼が可愛がっていた1匹のカエル、そして彼が姿を消した真の理由。

捜索の過程で隠された事実が少しずつ明らかになっていく。

果たしてキャリアを重んじ自身の任務に忠実な主人公は何を決断しどんな行動を選択するのか。

脱獄映画にありがちな派手さや痛快さとは無縁だ。

かと言ってテーマに引きずられて内容が重く地味になるかと言えば全くそんなこともない。

捜索作業のスリルも謎解きのミステリーも紅一点の美女までも楽しめる完成度の高いエンタメ作品となっている。

1つ、変わったカメラアングルで撮られたあるシーンがある。

それは光と闇が明確に分離されていて、まさにこの映画が待つ感動の力が凝縮されて一気に強く放たれたようだった。

イラン映画おそるべし。

 

『ウォーデン 消えた死刑囚』

■出演:ナヴィッド・モハマドザデー パリナーズ・イザドヤール
■監督・脚本:ニマ・ジャウィディ
■配給:オンリー・ハーツ

©Iranian Independents

author avatar
毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。