【レビュー】映画界の鬼才が、独創的なアートとして実践する驚異の心理セラピー『ホドロフスキーのサイコマジック』




ざっくり言えば「カルト映画」界の鬼才として一部の人たちにはその名を広く知られ、熱烈なファンも多い、チリの映画監督アレハンドロ・ホドロフスキー。

古くは代表作とも言える『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』が話題に上がることが多いが、近年も自伝的な作品『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』など、なかなかに衝撃的な作品を撮り続けていて、齢90を過ぎてもその精力的な制作意欲と活動からますます目が離せない。

そんな鬼才が今回の新作では、なんとかなり前に自ら発案したという心理セラピー“サイコマジック”について説明し、これを実践してみせる。

しかも、監督のこれまでの映画作品において実はこのサイコマジックが既に実践されていた、と言うからさらに驚きだ。

映画作品の中で心理セラピーが実践されていた・・・?どういうこと?

実は、時にシュール、時にグロテスク、時にどころじゃなく多くの場面で意味不明なホドロフスキーの映画を観終わると何故か気分が良くなったように感じていた経験が自分にもないわけではなかった。

まさにこの映画はその点に関するレクチャーのような要素を含んでいる。

かと言って、これまで他の作品を観たことがない人でも十分に楽しめる内容だ。

本作でホドロフスキーの確信や方向性に直接触れて、そこから過去の作品を観てみるのもいいかもしれない。

むしろその印象的な場面ばかりが紹介されるので、1本丸ごと作品を観たくなる気持ちが強くなるような気がする。

絵的になかなか強烈な場面もあり、笑ってしまいそうになるようなことも真剣に被験者に行わせるホドロフスキー。

理屈でも宗教でもなく、人の深層心理に触れて優しく語りかけようとする彼の心理セラピーの方法論がいかに一貫してて、少なくともそれ自体がアートとしていくつかの非常に個性的な映画という形を取ってきたことが理解できる。

驚くほどに老いを一切感じさせないこの鬼才は、きっとマッサージや小川のせせらぎの音や美しい景色や小動物の可愛い顔だけが人の心に対する癒しではないことを知っているのだろう。

もはや彼は、人の深層心理が気付かずに何よりも強く求めている“癒し”にしか興味がないのかもしれない。

 

『ホドロフスキーのサイコマジック』

■監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
■出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、アルチュール・アッシュほか
■配給・宣伝:アップリンク
■公開:4/24(金)よりオンラインにて先行配信する※詳細につきましてはこちらより

©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。