2019年、フランス・イタリア合作の1本のアニメ作品が海外の多くの映画祭で受賞し話題となった。
そのアニメは、詳細に描き込まれた写実的な日本アニメや臨場感に溢れた3Dアニメとは全く異なるアプローチが採られた。
ディズニーともまた異なる柔らかい作画とキャラクターデザイン、鮮やかな色のグラデーション、キャラクターたちのコミカルで独特な動き。
まさに昔のヨーロッパの絵本が魔法で動き出したようなその世界観は、多くの人を虜にしたとしてもおかしくない。
ただ、このアニメ作品の魅力はそのクラシカルな作画の暖かみや美しい世界観だけに起因するわけではない。
本作は、20世紀イタリア文学を牽引したディーノ・ブッツァーティが1945年に書き上げた同名の童話を原作としているが、そこには当時の人だけでなく現代人もハッとさせられるような様々な普遍的な寓意が込められている。
本作がただのアニメで終わらない理由はまさにこの寓話性にある。
主人公はクマの王レオンス。
人間の猟師に捕らえられた息子トニオを救い出すべくため、一族とともに雪山を降りて、トロルや化け猫などの難敵と闘いながら、人間の住む街を目指す。
人間たちとの激しい対立、そして共存。
クマとしてのアイデンティティ、これを脅かす人間文化からの影響。
クマを人間の特定の民族、国民に置き換えると本作に込められた寓意が見えてくる。
異文化・異国との対立、戦争。
民族意識に根付いたイデオロギー、文化間の影響や異文化の共生とその困難さ。
純粋無垢だが高度で複雑な文化に毒されやすい傾向もあるクマ王国のクマたちの描写を通して、ある特定の民族や国民にとっての真の幸福とは何かといった命題にまで心及ばせるような、その巧みなストーリーテリング。
『猿の惑星』の原作小説の約20年も前に、クマを擬人化することで人々の対立・共生・幸福について、こんなにも素晴らしい寓話が書かれていたことには素直に驚きを隠せない。
そして、日本やアメリカのメジャーな現代アニメとは異なる、ヨーロッパのクラシカルな2Dアニメの手法により原作の世界観をその方向性を変えることなく膨らませたことが、本作をより一層魅力的なものにしているように思えてくる。
何故なら、原作童話が有するヨーロッパのイメージを引き継ぐという意識・スタンスこそ、まさに本作に込められた民族や文化のアイデンティティ、幸福度といったテーマ・寓意にも重なるものだからだ。
憎めないクマたちの目まぐるしい動きから目を離せないまま、絶えず鮮やかな色彩が画面を彩り、運命論的な物語が進んでいく。
こうして現代の寓話にもなり得た本作は、アニメーションという表現方法が持つ可能性と未来を明るく照らす一筋の光と言えるかもしれない。
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