『トップガン』から36年ぶりに公開された続編が大ヒットして大きな話題を呼んでいるが、まだまだ80年代の勢いは止まらない。
あのロッキーシリーズ最大のヒット作『ロッキー4 炎の友情』が、何と35年の時を経て再構築されたのだ。
再構築?『トップガン』のように続編じゃないの?と思う人もいるかもしれないが、続編という意味では、未見の人は是非『クリード 炎の宿敵』(2019)を観てドラゴ親子の姿を目に焼き付けてほしい。
今回はそんな続編ではなくあくまで「ロッキー4」自体の再編集版だ。
しかしその生まれ変わり方がなかなかにダイナミックなのだ。
何と未公開シーンが42分も追加され従来の91分という尺は94分になった。
ほぼ半分が新しいシーンという大胆さ。
しかも映像も4Kデジタルリマスター、ワイドスクリーンにより新たに生まれ変わり、音声も5.1chサラウンドが採用されて観客を前後左右から異なる音が取り囲む。
まさに過去の名作が新たな解釈の下に最新技術により進化を遂げた。
シルベスター・スタローンはかねてより「ロッキー4」を再編集したいという思いを抱いていたという。
コロナ禍で十分な時間を作ることができた彼は編集室に閉じこもり何百時間もかけて自身の願望を編集作業に反映させていく。
こうして本作ではロッキー、アポロ、ドラゴの戦いに至る経緯がより詳しく描かれ、それぞれの人物たちの心情がより深く掘り下げられた結果、人間ドラマの部分に重みが増すこととなった。
スタローンは語る。
「戦いを描くのと、そのた戦いの核心に迫ることと、どっちが大事か、当時は今ほど自分を信じていなかった。今だから思えることは、価値あるものは、輝きそのものではなく、その輝きの下にあるものが重要なのだということなんだ。」
35年の時と経験を経たスタローンの考えの変化や円熟味がまさに過去の作品に新しい命を吹き込んでいる。
実際に自分が子供の頃に観た「ロッキー4」はアメリカVSソ連のイデオロギー対決、人間VSマシーンの対決、親友の敵討ち、これらをロッキーが最後に制するカタルシスにこそ目がいったが(当時は子供ながらに大興奮したものだが)、確かに本作は派手な部分とは別の深い人間ドラマが静かにそれでいて強く心を打つ。
アポロがドラゴと戦うに至るまでの細部のシーンはその悲劇をより強調することとなり、アポロの葬儀でロッキーがアポロに感謝して号泣するシーンは2人の関係をより深く直接的に想像させる。
ロシアのウクライナ侵攻が世界を驚かせている今日、モスクワでのドラゴとの試合の後にロッキーが観客に向けて行うスピーチもまた当時と違う響きを持ってくるから、映画の力というのは侮れない。
スタローン自身も「試合は二の次で、戦う理由こそがメインテーマだ」と述べているが、人類が戦争する理由が何なのかを真に見極めて戦争を二の次と考えられる時代は到来するのだろうか。
そんなことにまで考えを膨らませてしまったが、とにかく新しく生まれ変わった「ロッキー4」である本作、観てしまったら最後、続け様に『クリード 炎の宿敵』が観たくなるかもしれない。
そしてその後はまたオリジナルの「ロッキー4」を観て、そこからさらに再編集版の本作を…
この夏、トップガン・ループだけじゃなく、ドラゴ・ループにも気をつける必要があるかもしれない。
80年代の勢いは今年の猛暑に負けず劣らず尋常じゃない。
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