【レビュー】変化を乗り越えていく大河の流れと市井の人の営み―『春江水暖〜しゅんこうすいだん』




わずか30歳の監督の長編デビュー作が2020年のカンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選出され、世界の映画ファンを驚かせた。

それは、監督自身の故郷である中国は杭州の富陽を舞台にした、年老いた母と息子たちと孫からなる親族の日常の物語。

料理店を営む長男、漁師の次男、ダウン症の息子を1人育てながらも裏社会に関わる三男、気ままに独身生活を送る四男。

脳卒中で倒れて認知症が進行する母の介護問題に直面し、それぞれの息子たちが抱える生活の問題や想いが交錯する。

一方で親たちのシビアな問題とは距離を置いたような視点で孫の恋愛話も描かれ、映画に新鮮な空気を与える。

監督は、大河、富春江を擁する富陽を描いた山水画の名作「富春山居図」にインスピレーションを得てこの映画を制作した。

まさに山水画のようにゆったりとした時間感覚と雰囲気で物語は進んでいき、絵巻物のように美しい横スクロールのロングショットは観る者の心を奪う。

実質的に演技経験者は2名だけ、監督が自身の親族を実際の夫婦、親子の役のままに配役したというキャスティングにも驚く。

悠久の時の流れや雄大な自然の中にところどころ変化の描写も加えた中国の伝統的な山水画。

この物語の舞台である富陽の街も古い歴史を持ちながら、急速に進む再開発により家の取り壊しと高層マンションの建設が続く。

変化の対象は街だけでなく当然に人も例外ではなく、愛する母もいつまでも元気で健康なわけではない。

それでもたおやなかな大河の流れが変わらないように、四季がまた繰り返すように、市井に生きる人たちの親族の愛情や結びつきはきっと普遍で尊くあり続けるはずだ。

この映画が現代の山水絵巻と称賛される理由、是非映画館の大スクリーンで確かめてみてほしい。

 

『春江水暖〜しゅんこうすいだん』

■監督・脚本:グー・シャオガン
■撮影:ユー・ニンフイ、ドン・シュー
■音楽:ドウ・ウェイ
出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン 他

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毘沙門天 華男
映画、旅、ボクシング、読書、絵を描くこと、サウナ、酒が趣味の福岡出身の多動性中年。このプロフィールを書いてる途中もドラクエウォークをしています。