【レビュー】抑圧された性の解放と究極的な自己肯定―『タッチミーノット~ローラと秘密のカウンセリング~』




ルーマニア出身の新人監督アディナ・ピンティリエの初監督作が、ベルリン映画祭で最高賞と最優秀新人賞の2冠に輝いた。

ダイバーシティという概念が過去に比して急速に共有され始めた今日、自己と異なる存在に対する偏見や尊重・理解をテーマとする映画が世界中で次々と製作されて大きな注目と評価を集めている。

本作はそのような流れの中でも最先端に位置付けられる作品かもしれない。

他人に触れられることに拒否反応を起こしてしまう強迫性障害を抱えるローラは、病院でマイノリティの患者たちが実践するカウンセリング療養の光景を目にする。

障害や特殊な症状を抱える人たちが、自らの殻を破って相手に文字どおり触れ合い性とともに内心をさらけ出していく様子に、ローラは自ずと引き込まれていく。

監督自らの撮影場面も時折混じるため、フィクションとノンフィクションの境目が無くなるような錯覚を覚える。

特に監督と女優が観察する立場と観察される立場を入れ替わるシーンは重要だ。

その結果、この映画を観る、おそらくは多くのマジョリティーの人間たちは、決してこの映画が一部のマイノリティだけの話ではないことを肌で感じることになるだろう。

2時間あまりの映像体験で何かしら人生そのものを感じさせてくれるものが映画だとしたら、映画の本質とはある特殊な状況から普遍性を導き出すことにあるのかもしれない。

本作はマイノリティの性の解放を赤裸々に描くことで、誰しもが知らず知らずのうちに自分と他人の間に無意識に作り上げている壁の存在や、自己の内面の解放、といったテーマをじわじわとしかも確実に炙り出すことに成功している。

 

『タッチミーノット~ローラと秘密のカウンセリング~』 あらすじ

ローラは父親の介護で通院する日々を送っているが、 彼女自身も人に触れられることに拒否反応をおこす精神的な障がいを抱えていた。ある日、病院で患者同士がカウンセリングする不思議な療養を目撃するローラ。病により全身の毛がないトーマス、自由に四肢を動かせない車椅子のクリスチャンなど様々な症状を抱える人たちが、互いの身体に触れ合うことで自分を見つめていく。ローラは彼らを興味深く観察する中で、自分と同じような孤独感を持つトーマスに惹かれていく。街でトーマスに導かれるように秘密のナイトクラブへ入ったローラは、そこで欲望のままに癒し合う群衆を目の当たりにするのだった。

■監督・脚本・編集:アディナ・ピンティリエ
■出演:ローラ・ベンソン、トーマス・レマルキス、クリスチャン・バイエルライン、グリット・ウーレマン 他
■配給:ニコニコフィルム

 ©Touch Me Not – Adina Pintilie