北マケドニアの電気も水道も通らない谷にある家で寝たきりの老母と暮らす養蜂家の女性。
美しい大自然に囲まれてはいるものの、その決して便利とは言えない場所で、彼女はどのような信条に従い、どのような気持ちを胸の奥に押し込んで日々の生活を送るのか。
この驚異のドキュメンタリーは、彼女の日常に密着することにより、大いなる自然を前にした人の営みの“真実”を観る者に提供する。
彼女は蜂の巣からハチミツを半分しか収穫しない。
この「半分は自分に、半分は蜂に」という彼女の信条が、彼女なりの自然界との折り合いの形であり、自然を壊さず守りつつ自身の生活をも長きにわたり維持していく秘訣でもある。
厳しい自然に囲まれたこの谷に一組のトルコ人家族がトレーラーハウスで引っ越してくる。
何人もの子供達を抱えるその夫婦も精一杯の苦しい生活を送っており、少しでも生活を楽にするために日々試行錯誤を繰り返す。
この隣人家族と養蜂家の女性とのやり取りはどの場面も重要で、この映画のテーマに密接に関係している。
登場人物は少ない――養蜂家の女性、老母、隣人家族。
これらの人々の一見地味な日常生活を追ったドキュメンタリー映画が、これほど雄弁に監督が意図した「物語」を紡ぐとは・・・
それは彼女のハチミツのように濃厚で混じり気のない物語。
これは監督の偉業というほかない。
そして、この映画を観ると、女性養蜂家の熟練の仕事ぶりもまた一つの確かな偉業に違いないことに気付くのだ。