声優の石川由依が主人公を演じた映画『とんがり頭のごん太―2つの名前を生きた福島被災犬の物語―』が、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開となった。東日本大震災により飼い主と生き別れた被災犬ごん太を中心に、多くの人々の善意に満ちた行動が奇跡を紡ぐ感動の物語だ。吉野由紀役を演じた石川に、作品のテーマのこと、声優業のことを聞いた。
―とても感動的な作品でしたが、今回の作品に入る前に声優として何か感じたことはありますか?
今回の作品では、東日本大震災という実際に起こった出来事が描かれているので、作品が公開されれば、いろいろな感じ方をする方がいると思うんです。もしも誰かを傷つける内容であれば、わたし自身も悲しくなってしまうので、作品をきちんと理解し、真摯に作品に寄り添いたいと思いました。
あとは実際に映像を観てから思ったことでもあるのですが、作品のイメージ的にもアニメーションというよりもドキュメンタリーのような、とてもリアルな作品になりそうだなとまずは思いました。リアルな描写がたくさんあり、台本をいただいた時にどうやって演じて行こうか考えていく中で、より自然に演じたほうがよいだろうと思うようになりました。
―吉野由紀というキャラクターについては、どのように準備したのですか?
由紀に限らずこの作品に出てくる人たちは、とてもリアルな人物像なんですよね。普通に生活していて個性的な人はいても、アニメーションのキャラキターほど個性が強い人はなかなかいないですよね。
今回の由紀はアニメだからと言って変に特徴づけず、なるべく自然体であまり作り込みをしないようにしました。物語の中で初めて被災地へ行って成長を重ねていくという過程があったので、わたしの中でも固めすぎず、あえて不安や迷いの気持ちのまま、それが声に乗っていたほうがリアルなお芝居になるのではと思ったので、由紀と一緒に成長していくくらいの気持ちで収録に臨んでいました。
―改めて、演じてみていかがでしたか?
自分の実体験を交えて演じることができたとは思いますが、わたしは人を引っ張っていくタイプではないので、自分も由紀みたいな人間になりたいなという願望を込めて表現していたかも知れませんね。
―ついて行くタイプですか???
そうですね(笑)。学生時代は学級委員をしていたこともありましたが、大人になるにつれ、そういう勇気がなくなり、今は引っ張って行くタイプではなくなってしまいました(笑)。
―石川さんは声優として活躍されていますが、今ご自身で考える課題や伸ばしたいところはありますか?
声優のお仕事ってアニメーションだけではなく、吹替えやナレーションなどいろいろとあるのですが、必要とされる技術は違うのに外から見てしまうと、全部が声優というお仕事に思われてしまうと思うんですよね。わたしは基本的にはアニメーションが多いので、まだ吹替えやナレーションを、自信を持ってできるレベルには到達していないので、すべてのお仕事に自信を持てるくらいの経験を早く積みたいと常々思っています。なので、そういうご縁が増えたらいいなと思っています。
―確かに、さまざまな種類がありますね。
すべて、まったく違うものなんですよね。わたしが吹替えをすると「声優さんだから上手い」と言ってくださる方もいるのですが、心の中ではまだまだだと思っているので、そのギャップを失くしたいんです。
―最後になりますが、あれから10年以上が経ち、この作品が世に出ていくことについて、何か想うことはありますか?
東日本大震災から今年の3月で11年が過ぎ、それこそ当事者の方から外れてしまうと、記憶が薄れてしまうことも少なくないような気もするんです。でもあの時のことは本当に忘れてはいけないと思いますし、あの経験が今後大きな地震が起こった時に役に立つきっかけになると思うので、今だからこそあの時何が起こっていたのか、どういう活動をしていた方たちがいたのかを、この作品を通して知っていただくことで、みなさんの中にも考えるきっかけが生まれるのではないかなと思います。
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