米LIFE誌が“この1000年で偉大な業績を残した100人”にも唯一の日本人として選出した葛飾北斎の知られざる生涯を初めて描く映画『HOKUSAI』が、新型コロナウイルスの感染拡大による丸1年の公開延期を経て、遂に全国公開となった。絵に苦悩する青年期の北斎を柳楽優弥が、老年期の北斎を田中泯が演じる大胆な構成で葛飾北斎の全貌を浮き彫りにする本作は、すでに海外の注目も集めている。稀代の絵師を熱演した主演の柳楽に話を聞いた。
―誰もが知っている葛飾北斎は挑みがいのある役柄だったと思いますが、実際に演じられていかがですか?
特に青年期の北斎は謎が多くあまり情報が残されていないので、調べれば調べるほどわからなくなる人物でした。ただ、生涯通して、約3万点もの絵を描き、多くの作品を残したということがわかったんです。売れたのも晩年になってからということもあり、誰もが知る“北斎”のイメージは老年期の北斎ですよね。絵師としてのキャリアがとても長いということから、実は並々ならぬ努力をした人なのではないかと想像して、監督と人物像の方向性を決めて、一緒に本当に北斎のことを研究しながら撮影に臨みました。
―その中で見えてきた青年期の北斎というものは、どういうイメージになりましたか?
北斎は絵と天才というイメージが強かったのですが、アーティストは、私生活がそれほど見えないですよね。バンクシーもそうです。演じるにあたっては、想像で補わなければいけない部分も多かったです。相当な努力を積み重ねた人の、等身大のサクセスストーリーでもあると思いました。生まれながらの天才ではなく、アーティストとしては生きやすい時代ではなかったけれど、その中でも描き続けた。プライドや挫折も経験した中で、人一倍努力した人だったのだろうというイメージのほうが強くなりました。
―目や手などの身体的な表現もとても印象的でしたが、芸大の先生に絵師の体の動きを学ばれたそうですね。
絵を描く練習はたくさんしました。以前『アオイホノオ』というドラマをやらせてもらっていた時に漫画を描く練習をしていたことはあったのですが、筆で描く絵はそれとは違うものでしたし、一から学んだので難しかったですね。北斎、写楽、歌麿など、絵師たちの描き方は全員違っています。絵を描く作業は動きがそれほどあるわけではなく、派手なアクションではないので、その中で北斎の貪欲さや、荒々しい雰囲気をどう表現していくのかが難しかったです。
―自分の絵を追求する北斎の姿を観て(演じて)、改めて思うことはありましたか?
北斎は波の絵の印象がとても強いと思うのですが、若い頃は人物画を描いていたり、飽くなき好奇心から試行錯誤を続けている人だったんです。最初は模倣することであったり何らかの影響や練習を重ねていくことで、自分のアイデンティティが見つかっていくという過程がアーティストらしい部分だと思うのですが、青年期の北斎はそういうアーティスト性を強く持っていると思います。人物や風景を描いていた頃の作品は特に印象に残っています。
―そして北斎のように自分らしさを突き通すことは、どの時代でも難しいと思うのですが、同じ表現者として考えることはありましたか?
僕らしさというのは、正直まだわからないのですが、40代に向けてもっといろいろな技を身に着けたいと思っているので、新しい趣味を始めたりしています。
僕は人生そのものがエンターテイメントになっている人がとても好きで、たとえばWikipediaが面白い人が好きなんです(笑)。北斎もひたむきに絵を描き続けていたけれど、ハタから見たら変わっている人だったかも知れない。あれだけの集中力を持って、画狂と呼ばれるほどに生涯絵を描き続けたことで、その人生が映画化された人なので、北斎のように映画になるような人生を生きる人が好きです。後世に学びを残せる人はすごいと思いますし、勇気を与えてくれるような人へのあこがれがあるのかもしれません。
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