絶えず不安がつきまとう雰囲気の中に美しい金髪の主演女優が見事に映える。
物語自体は十分にショッキングなスリラーだ。
裕福な一家の息子と結婚してお腹に子供も授かった主人公は、客観的には誰もが羨む生活を手にしながら、その実夫やその両親が自身の自主性や尊厳を認めてくれないことに苦しみ、深い孤独感にさいなまれる。
そんな主人公がはけ口のように取った行動は、ガラス玉、ピン、ボルトといった異物を次々と口から呑み込むことだった。
カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督は、強迫性障害を患った祖母の行動から着想を得て本作を制作したという。
何よりも主演女優ヘイリー・ベネットの演技が素晴らしい。
周囲には幸せなふりをしながらこっそり禁断の自己実現の深みにはまっていく精神の不安定な妊婦。
その表情や行動の生々しいリアルさには思わず息をのんでしまう。彼女が飲むのは異物だが。
何不自由ない現状に自分を適用させようとしても、どうにもならない主人公の悲痛。
まるで異物という禁断の果実を呑み込んだせいで楽園を追放されたイヴのようだ。(イヴと異物って何か似てるし。。。ブツブツ)
自分は本作を契機に異食症という言葉を初めて知った。
栄養価の無いものを無性に食べたくなる精神障害の症状のことを言うらしいが、本作の描写はなかなかに痛々しい。
それだけに異食症の原因が紐解かれていく後半の展開は大きな重みを持ってくる。
抗いようのない壮絶な現実の前には、他人に用意された幸福など偽りの楽園にすぎないということなのか。
異物を呑み込む行為には当然に痛みを伴う。
だが主人公はもっと大きな現実の痛みに正面から対峙しようと行動を起こす。
その行動を目の当たりにして凄烈な感動と同時に言いようのない悲しみを覚えた。
『スワロウ』
■出演:ヘイリー・ベネット、オースティン・ストウェル、エリザベス・マーヴェル、デヴィッド・ラッシュ 他
■監督・脚本:カーロ・ミラベラ=デイヴィス
■音楽:ネイサン・ハルパーン
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